第74話 興味津々
「ねぇ! 貴方方は何処に住んでるの?」
「何処……と言われても」
今日も進化の儀の見学をすることになっているんだけど、それまでの間フブキの散歩がてら話をすることになった。
ナユダさんに散歩の話をしたら、結構あっさり許可された。
魔神様と一緒に神獣様も居るから問題ないらしい。
勿論ナユダさんも一緒に……なんだけど。
「あんな美味しいパンが食べられるなら住んでみたいわ」
ナユダさんは俺たちの住んでいるところに興味を持ったらしい。
いや、パンにか?
「ね! やっぱり船じゃないと行けないところなんだよね」
「そうですね。歩いて行けなくもないでしょうが何ヶ月かかるか……」
実際にはどのくらい離れているかも分からないから1年以上かかってもおかしくないし、それだけ長い間旅が出来るはずもないから事実上不可能だ。
あ……でもデニスさん達は来られたんだっけ。
不可能じゃなかった。
といってもここの環境を考えるなら1週間ですら無理なのでは……
魔物に襲われないことを前提としてだけど。
「そんなに遠いの?! でもあの船ならもっと早く着くんでしょ。ひと月くらい?」
「あーそうですね。そのくらいで行けますね」
ひと月掛けてゆっくり飛べばいいだけだから、嘘ではない。。
「ひと月かー。でもそのくらいの価値はあると思うんだよ。パン以外にもあるんでしょ。あのスープとかさ」
「そうですね」
「やっぱりあるんだ。いいなぁ。行ってみたいなぁ。ね、ね、何処にあるの? どうやって行けばいいの?」
「何処と言われても……行くのは無理だと思いますよ」
「いいじゃない。行けるかどうかを判断するのは私だよ。場所が分からなきゃそれもできないじゃない」
んー、しょうがないなあ。
『タイム、教えてやってくれ』
『いいの?』
『緯度経度でいいだろ。どうせ教えても分からないよ』
俺自身聞いても分からないしな。
『許可できません』
「ね、いいでしょ!」
『どうしてだ?』
『ナユダ様が分からなくても、魔神王様なら分かるやも知れません』
確かにそうかも知れない。
『でもナユダさんはレジスタンスのリーダーだろ。その可能性は無いんじゃないか?』
「ねぇってば!」
「え、えーと……」
『今回のように捕らえられたら分かりません。それに知ったことを話したから大した罰も受けなかった。だから元気なのかも知れません』
『口が軽いと?』
『話すことが仕事に含まれていたならば、全て話していることでしょう』
仕事か……
ナユダさんの行動原理から言えば、それで全て解決するのか。
「その……ここからどう説明すればいいのか。タイム、確かこっちだったっけ?」
適当な方角を指さしてみた。
「そっちだっけ?」
「んー、多分」
「こっち? こっちの方にまっすぐ行けば着くの?」
「多分……」
「曖昧だなぁ。よくそんなんでここに来られたね」
「っはは、適当に探していたら見つけたからね。ここを目標として来たわけじゃないから」
「じゃあどうやって帰るの?」
「そ、それは……えーっと」
鋭い突っ込みだな。
確かに帰る場所が分からなければ帰れない。
「船に記録が残っているから、それを辿れば帰れる……かな」
としておけば誤魔化せるかな。
一応事実だし。
「船……」
「う、うん」
「船か……じゃあ船に乗せてよ」
「ええ?!」
「ちゃんと仕事するからさ。乗せてよ」
多分仕事をさせればサボらないでやるとは思うけど、正直やってもらうような仕事は無いんだよね。
そもそも定員オーバーだし。
「無理です」
「なんでさ。仕事はするって言ってるんだからいいでしょ」
「あの場所でも言ったじゃないですか。連帯責任です」
「いいじゃんそんなの。私の責任じゃないんだから」
「その発言はリーダーとして如何なものでしょう」
「え?」
またデイビーのヤツ、出しゃばってきやがった。
「ナユダ様にはリーダーとしての責任感が足りません」
「なにそれ。私は好きでリーダーになったわけじゃないもん。責任とか言われても知らないよ」
「前任の方に任されたのですよね」
「押しつけられたの!」
「では辞任されて他の方に譲られては如何でしょうか」
「任された仕事を途中で放棄することは出来ないよ」
んー、責任感が強いんだか無責任なんだか分からない人だ。
「ではその仕事を全うされては如何ですか」
「してるよっ!」
「僕には全うされているようには見えません」
「そんなの貴方の見方が悪いんだよ」
「そうでしょうか」
「そうだよ!」
「それは大変失礼しました」
「ホント、失礼なヤツ」
「…………」
うわ、よく我慢しているな。
異世界人を相手にするならこのくらいじゃないとダメなのか?
でもウィーラーが我慢強いとは到底思えない。
ただの性格かな。
「ね、いいでしょ。乗せてよ」
「そもそも定員オーバーなんです。乗せる場所がありません」
「えー?!」
これで諦めてくれるといいんだけど。
「じゃあさじゃあさ、見るくらいならいいでしょ!」
「見る?」
「そそ。ね、今から行こう! しゅっぱーつ」
「あっ!」
走って行っちゃった。
「ほらほら、早く!」
見学くらいならいいか。
中は無理だけど。
次回、チラリズムは無い




