第73話 仕事の付き合い
「……解放されるのが早すぎる」
「え?」
「それに一晩お仕置きされたと言っていた割に元気すぎる」
「軽いお仕置きだったんじゃないですか」
「腕の痕を見ただろ。仮にあれが全身にあったとして、貴方はナユダのように振る舞えるか?」
「………………」
言われてみればそうだ。
一晩お仕置きされて腕のあれだけなんてことは無いだろう。
全身に同じような痕があっても不思議は無い。
なのにあんなにも元気。
ダイスさんが疑問に思うのも無理は無い。
アニカは尻をやっただけでもプルプル震えていたのに……
でもあくまで仮の話。
腕のあれだけの可能性だってある。
……一晩で?
なんか昨日デイビーに言われたこととか考えると、なんでもないことでも怪しく考えてしまう。
ダイスさんが惑わすために言っている……なんてこと無いよな。
「ナユダには気を許すな」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だ」
気を許すな?
そのままの意味と言われてもサッパリ意味が分からない。
気を許すな……親しくするなってことか?
仕事と割り切れってことなのかな。
「「「いただきます」」」
『デイビー、どう思う?』
『どう、と仰いますと?』
『ダイスさんが言ったことだよ』
『船長はどうお考えなのですか』
『俺? ナユダさんはあくまで仕事で俺たちの相手をしているだけだから深入りするな……かな』
『そうですね……それでいいと存じます』
『いいのか?』
『船長はナユダ様よりダイス様の方を信用なさっているように感じます。ならば、それでよろしいかと』
『そんなつもりは無いんだけど』
『それは失礼しました』
『いや、デイビーがそう感じたのなら無意識でそう思っているのかも知れない。言われてみればナユダさんは口を開けば仕事仕事だ。それよりはダイスさんの方が人間味を感じられる』
『そうですね。それは僕も同感です。その分ナユダさんの方がきっちりしてくれるとも存じます』
なるほど。そういう考え方もあるのか。
『ですがダイスさんの仰ることにも一理あります。気をつけるに越したことは無いでしょう』
『分かった』
気を許すな……か。
ナユダさんは仕事で接しているだけ。
俺たちも……言いたくはないが仕事でここに滞在しているだけ。
お互い仕事の関係を超えないようにすればいい。
……難しいな。
そもそも仕事の関係ってなんだ。
会社勤めなんかしたこと無いから分からないぞ。
仕事の関係……デイビーもか。
デイビーも俺たちのことを仕事と割り切っているって話なんだよな。
それは俺もそう……なんだと思う。
でもこうやって話をしているとなにが仕事でなにが……えーと、プライベート? なのか分からなくなってくる。
『お腹空いたよぅ』
『どうしたアニカ』
『朝ご飯抜きなんだよぅ』
『え、貰えないのか?』
『昨日の儀式からなにも食べてないんだよぅ。お水も無くてさー。喉渇いた! お腹空いた!』
『水なら龍魚に貰えばいいじゃないか』
『あっそうだった! モナカくん頭いいね。龍魚ー!』
精霊召喚術師のお前が気づかなくてどうするんだよ。
モグリじゃないだろうな。
「「「ごちそうさまでした」」」
「では食器を片付けてくる。後はナユダに任せよう」
「ナユダさんに?」
「これは本来ナユダの仕事だ。戻ってきたのなら戻すのが当たり前だ」
そういうものなのか。
「あ、ダイス!」
「もう食べ終わったのか」
「うん」
「そうか。なら後は任せたぞ」
「分かってるわ」
そういうものだったようだ。
次回、強引に行きます




