第70話 チュートリアルってなんだっけ……
『さ、殿。今日こそチュートリアルをクリアするでありんす』
『……出来るといいな』
正直、ここに滞在している間にチュートリアルが終わる気がしない。
そもそもチュートリアルとして成立しているのか疑問だ。
っと、あれは罠かな。
小石で木に印を付けてっと。
1秒と立ち止まれないからな。
歩きながらサクッと付けよう。
とにかく、今は罠の無い方へ進んでいこう。
しかしこう注意深く見てみると、結構あからさまに罠が設置されていたんだな。
糸も割と目立つし、隠し方も雑だ。
あれは囮の罠で本命は……なんて疑ったけど、そんなこともなかった。
今回は大分進んだな。
進んだけど……んー、なんか段々罠が減ってきているような……
猛獣も出なくなったし、出口が近いのか?
でもなんか余計森が深くなっているような……
木と木の間が狭くなった気もするし、その所為か段々暗くなってきている。
……まさか逆方向?!
森を出るんだから木々が少なくなるのが当然。
でもここはより密集してきた。
ということは、もしかして出口は罠がある方?
出すことを阻むのならそれが必然か。
それがサムライの言う目印?
なら一旦デステレポでスタート地点に戻るか。
…………あれ?
『サムライ?』
『意図的なデステレポはさせないのでありんす。気づいたようなのでスタート地点を現在地に再設定するでありんす』
くっ、なんて嫌らしいシステム。
てか、出口が滅茶苦茶遠くなったじゃないかっ。
とにかく戻、なにっ?!
さっきまで無かったはずのところに罠がある。
明らかに増えているぞ。
ふーっ、とはいえあからさまなのは変わりがない!
駆け抜けるぞ。
………………
…………
……
『お疲れさまでありんす』
『お疲れじゃないよ。なんだあのボスラッシュは!』
森の出口に近づけば近づくほど罠は増えていった。
それでもなんとか罠をかいくぐり、森の外が見えてきた! と思ったら猛獣のオンパレード。
何処のサファリパークに紛れ込んだんだっての!
人間が幾ら本気で走ったところであいつらから逃げ切れるはずがない。
『殿が本気を出せば余裕でありんす』
『無茶言うな!』
こちとら黒埜が呼べないんだぞ。
素手で熊と? 虎と? 猪と?
と思ったが、よくよく観察すると動きに一定のパターンがあった。
パターンさえ分かってしまえば理論的に躱すことが可能だ。
理論的には……な。
反応が追い付かねぇ……
多分時子の補助魔法が掛かっていれば余裕で躱せるレベルだ。
素でそのレベルになれと?
来ると分かっていても、避けようと思っても、頭では分かっているのに身体が追い付かない。
熊の爪が、虎の牙が、猪の体当たりが迫ってくるのが分かるのに……
その一撃が当たる瞬間が目に焼き付いて離れない。
恐怖で足がすくんで余計動かなくなる。
動かなければサムライに斬られてしまう。
前門の獣、後門の辻斬りだ。
動けなかろうが無理矢理にでも動くしかないっ!
……というのを何度繰り返したことか。
『時間切れでありんす』
ということで、今日もチュートリアルすらクリアできなかった。
普通クリアさせてシステムを理解させることが目的じゃないのか?
クリアさせる気ないだろ。
時間は……昨日と同じくらいか。
まだ出来ると思うんだが、機械部分は問題ないけど生体部分が持たないとか。
俺自身はそんな風に感じないんだけどな。
ナースのお陰なのか?
とにかく、もう寝よう。
寝坊しないように携帯の目覚ましでもセットしておくか。
『おやすみ』
『おやすみでありんす』
次回は、一方その頃……




