第68話 モナカと時子のブルース
「なにをしている」
あ、ダイスさんが戻ってきたみたいだ。
「そういえば昨日も出ていたようだが」
「すみません、修行です」
「シュギョウとはなんだ」
「えーと、鍛錬することです」
「タンレン……」
「……身体を鍛えているだけです」
「そうか。終わったら教えてくれ。私はここで見ている」
ナユダさんと同じ……それが仕事ってことか。
今日も昨日と同じように筋トレだ。
要するに自分が限界だと思うまでやる。
ただ目標としては昨日の自分に負けないこと。
あくまで目標でノルマじゃない。
今のところ負けてはいない。
でもこれって日に日にキツくなるってことだよな。
負けたくないけど……正直キツい。
そして時子が加わったことで出来るようになったこともある。
手を繋いだまま如何に素早く動けるか……なんだけど。
なんだあのタイムの格好は。
ドレス?
「続いて10メートルダッシュ5本を10セットよ。マスター、時子を置いていかないの。時子、遅すぎよ。まったく……手じゃなくて足を繋ごうかしら」
「次は手押し車ね。マスターは手をついて。時子はマスターの足を持ってね。こら、背中を落とさないの。今度は時子が手をついてね」
「レッグ・トスやるわよ。マスターは仰向けになって足を真っ直ぐにして上げて。時子はマスターの頭の上に足を開いて立ったら、マスターの足を掴んで前や左右に押し投げて。マスターは足が地面に付かないように抵抗してまた上げる。でも時子、そこはスカートを履いてくるべきだったわね」
「なに言ってんの!」
「お姉ちゃん!」
「ふふっ、次は時子が仰向けよ」
「アプス・タッチよ。向かい合わせで体育座りして。そうしたら足を絡ませて腹筋運動するの。起き上がったらハイタッチ! そうそう、いいわよ」
「肩車スクワットね。時子を肩車してスクワットするのよ。時子、マスターに掴まらないで手は頭に乗せて背筋を伸ばす!」
「はいっ」
「マスター、膝を前に出しすぎないで! ほら、時子の太ももを持って落ちないように支える。ふふっ、役得ね」
「おいっ!」
「今度は時子がマスターを肩車して」
「おいおい、無茶言うな」
「ううん、やるわ」
「いい心がけね」
「はい、次はサイドバランス、左右1分ずつね。右足上げてー。次は左足ー。はい右ー、左ー」
「肘立てキープ1分よ。しっかりお尻上げて制止して。動いたらやり直しよ」
「じゃ、いよいよ組むわよ」
「……組む?」
「まず半身ズレて向かい合って……もっとくっつく! ……いいわよぉ。マスターは左手で時子の右手を握って……そうそう。左手は時子の肩甲骨よ。時子は左手をマスターの右手上腕に……そうよぉ。それでいいわ」
「……なんか、ダンスでもするのか?」
なんてな。
「そうよ。まずはブルースからいくわよ」
「待った待った待った! ……え、ダンス? 修行は?」
「だからこれが修行よ」
「それにその格好はなんだ? いつもの紋付き袴はどうした。語尾もおかしいぞ」
「バカね。ダンサーが着るのはドレスに決まってるでしょ」
「ダンサー?! サムライは?」
「拙者に踊りは無理でありんす」
声だけかよ。
「だからダンサーが教えるのよ」
「なるほど……じゃなくてだな」
「いい? 最初はマスターが右足を前に、時子が左足を後ろに。スロースロー、マスター動いて」
「あ、すまん」
「はい、スロースロー、90度向きを変えて足を揃える。今度は後ろ向きにスロースロー向きを変えて揃える。それが基本よ。さ、音楽に合わせてーはいっ」
ダンスってなんだよ。
しかもサムライじゃなくてダンサー?
どういうことだ。
戦闘の修行……なんだよな。
ダンス?
「下を向かないっ。猫背にならないっ。背筋を伸ばして前を見るっ! はいそこでチェックバック」
「チェッ……え?」
「左足を前に、次はそのまま右足に重心を移して、時子は逆よ。はい向きを変えて、足を揃える。そうそう、それでいいわ。スロースロークイッククイック、スロースロークイッククイック、チェックバッククイッククイック。いいわ、いいわよぉ。その調子!」
おー初めてでもそこそこ踊れるもんだな。
この調子この調子……
なんで俺、時子とダンスしているんだ?
次回、彼彼女




