第64話 問題だらけ
「それで船長、先ほどの続きですが」
「あ? ああ、続き……続き、ね」
……なんの話だっけ。
「そもそもあの地下室は誰が用意したのでしょう」
「地下室? ……ああ、そういえばそうだな」
そうそう、レジスタンスの話だったっけ。
「あの地下室に入る扉には、魔力が込められていました」
「魔力が? そんなに気にするほどのことか? ここなら普通のことだろ」
「ラスティスでは普通のことですが――」
「ラスティス?」
「僕たちが暮らす結界都市のことです。ご存じありませんでしたか」
「クラスクとしか聞いていなかったからな。初耳だ」
「そうで御座いましたか。〝最後の人類〟という意味なのですが、改名した方がよさそうですね」
「最後じゃなくなったからか?」
「左様で御座います。冗談はさておき」
冗談なのかよ。
「ここで魔力が込められた物は初めてです。恐らくかなり古い時代に造られたものでしょう」
「どのくらいだ?」
「分かりません。ですが、少なくとも数百年前は確実でしょう。大部屋の設備は竈や石窯といった魔力を前提としないものばかりでした。ですがあそこの既設設備は全てが魔力を前提としたもの。彼らが使えていたのは照明くらいでしょうか。後付けと思われるものは魔力を必要としていません」
そういえばタイムは普通に鍋でスープを煮ていたな。
魔力前提だったら不可能だ。
エイルが居たらあの部屋に籠もったんじゃないか。
「つまり、そのくらい前からレジスタンスは存在していたってことじゃないのか。そしてその頃はまだ魔力が普通に使えていたが、世代を重ねるにつれて徐々に魔力が使えなくなっていったんだろう。今も照明が点けられるってことは、僅かでも魔力が使えるってことなんじゃないか?」
「かも知れません。ですが今の彼らを見ていると、とても彼らの祖先に造れたとは思えません。少なくとも……」
「少なくとも?」
「いえ、あり得ない話ですから」
「いいから話せ」
「……魔神王様なら或いは」
「可能なのか」
「知識だけでしたら恐らく可能でしょう。ですが魔人の寿命や性質を考えれば不可能です」
「性質……魔力を作れないってヤツか?」
「はい。魔力を奪うことは出来ても与えるなんて……ましてや魔法陣を刻むなど不可能です。専門的な知識と道具が必要なのです」
「そうなのか」
「エイル様のお仕事をご覧になっていたならどれだけ大変なことかが理解して頂けるでしょう」
エイルの仕事か。
確かに工房の職人さんは大変そうだった。
エイルはいつもパソコン……というか、机の端末を弄っていることが多いからな。
職人さんに指示出ししているのはよく見かけたけど、エイルが作業している姿はあんまり見ていないんだよね。
「中央にある転送装置は過去の遺産を利用しています。新たに作るならば……いえ、作ることは出来ないでしょう。それを考えるならば、あの扉は新しすぎます」
「どういうことだ。あの扉は転送装置だとでもいうのか?」
「恐らく……それならばあそこに他の集落の人が集まれることの説明ができます」
確かにそうかも。
「それにメンバーの人数を把握していなかったのもリーダーとしての責任感に欠けていると言わざるを得ないでしょう」
「人数……確か20人くらいって言っていたな」
「そうです。20人ではなく、20人くらいと曖昧で御座いました。組織の全体を把握できていないのは問題でしょう」
う……それを言われると俺も胸が痛い。
1人数え間違えていたからな。
「曖昧にして把握させなかったという線は?」
「僕たちに協力を仰ごうとしているのにですか」
「それは……そうかも知れないけど」
「信用を得たいのならば、まず僕たちを信用するべきです。利用したいだけならば別ですが、それならもっと上手く立ち振る舞うべきです」
くっ……
なにも言い返せない。
「そしてダイスさんの存在です」
「なにか問題でも?」
「大ありです。メンバーでもない者に情報がダダ漏れになっています。これが問題でなくてなにが問題だというのですか」
「確かにそうだな」
「もしダイス様が魔神様と繋がっていたらどうなるでしょう」
「どうなるって、繋がっているようには見えなかったぞ」
「演技が上手くなければスパイは出来ません」
「演技って……」
「保身のために味方を売るものは必ず居るものです」
「ダイスさんがそうだと?」
「可能性の話です。確証はなにもありません。ですがダボ様があの場に現れた理由にはなります。新しい世話役に指名されたことも果たして偶然でしょうか」
「ダイスさんが売ったとでも言うのかっ」
「ですから可能性の話です。ワン様の前の魔神様は皆様から慕われていたと仰られていました。その魔神様が亡くなられた原因がナユダ様だとも。動機もあります」
「それならダイスさん以外も動機があることになるぞ」
「ですが、情報を持っていたことが分かっているのは彼だけです。僕たちの世話役なのに一緒に入浴しませんでした。その間……一体なにをしていたのでしょう」
「ダボさんにチクっていたとでも言いたいのか」
「他の魔神様にかも知れません」
「そんなに信用できないのか」
「逆に何故船長がそこまで信用できるのかが不思議です。信用に足る彼のなにを知っているのですか」
「親子のことをあんなにも知りたがっていただろうがっ」
「……話になりませんね」
「なんだと!」
「とにかく、ダイス様に限らず僕たち自身のことは話さないようにしましょう」
「……分かった」
スパイ……裏切り者か。
ある意味デイビーも中央のスパイみたいなものだからな。
でもダイスさんは絶対違うと思うぞ。
次回、あいつは例外的存在




