第63話 2人の秘密
鈴ちゃんを抱きかかえると、首にギュッと抱き付いてきた。
さっきは力無く肩にもたれ掛かっていただけなのに。
少しは回復したのかな。
引き戸はナームコが開けてくれた。
珍しいな。
でも鈴ちゃんが関わるとわりかし積極的なのはなんでだろう。
時子のところに戻ってくると、既に布団が敷いてあった。
よし、直ぐに寝かせられるぞ。
掛け布団はまだいいか。
「鈴、お水よ。ゆっくり飲みなさい」
「はい、ありがとうございます」
持ってきてくれたのか。
飲みやすいように上半身を起こして、倒れないように支えてやる。
鈴ちゃんは木のコップを両手で受け取ると、ゆっくりと一口一口飲んだ。
「大丈夫なのか」
ダイスさんが心配そうに覗き込んできた。
「はい。水を飲んで休んでいれば大丈夫です」
「そうか。スズ、水は足りたか。足りなければ遠慮せず言え」
「ありがとうございます。平気です」
「そうか。では私は風呂に入るとしよう。モナカ、もし足りないようなら台所の飲用水を汲んでやってくれ。間違っても洗い物用の水を飲ませるな。場所はトキコが知ってる」
「分かった。ありがとう」
「気にするな。仕事だ」
あー、やっぱりそうなんだ。
ダイスさんも〝ありがとう〟って言ったことないのかな。
「パパ……」
「ん? もういいのか?」
「うん……」
「娘、多めに取っておけ。少なくとも渡された分は飲み干すんだ」
「はい、分かりました」
「無理に飲ませなくてもいいだろ」
「人は一度に沢山飲まないようブレーキを掛けるものなのでございます。ですから実際には足りていない場合が多いものなのでございます」
「そうなのか?」
「左様でございます。それから娘、飲み終えたら船に戻るぞ」
「はい、分かりました」
「船に? なら俺も一緒に行くぞ」
「いいえ、兄様はここにいてほしいのでございます」
「どうしてだ」
「パパ、鈴はナーム叔母さんと2人がいいの」
「えっ」
なん……だと。
鈴に……拒否されて……しまった。
しかも2人っきりがいいって……
「ごめんなさい。パパのことは大好きだよ。だからそんな悲しそうな顔をしないで」
「あ、ああ……」
「よし、飲んだな。行くぞ」
「はい」
「ほら、乗れ」
おんぶしてやるのか。
「ありがとうございます」
「気にするな」
「…………」
「……なんでございますか」
「いや、やっぱり優しいなって思っただけだ」
「なっ……病人に無理をさせられないだけでございますっ。優しいわけではないのでございます」
「っはは。そういうことにしておいてやる」
「兄様っ。もう……」
照れるな照れるな。
言葉は厳しいけど、鈴ちゃんを思ってのことなんだよな。
もしかして俺が見ていないところで甘やかしているのかも。
「ありがとう。よしよし」
「あ……あの……い、行ってくるのでございます」
「行ってらっしゃい。気をつけてな。鈴のこと、頼んだぞ。なにかあったら直ぐ連絡しろよ」
「存じたのでございます」
とはいえ、あんな状態の鈴ちゃんを連れて船でなにをするつもりなんだろう。
医療設備なんかあったっけ。
分からないことが多い船だ。
エイルが居ればもっと色々調べられたんだろうけど。
次回、続きってなんだっけ




