第5話 勧誘
そうこうしていると、扉が4回ノックされた。
「アニカ様をお連れしました」
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
アニカが入ってきてデイビーさんを見つけると、恐る恐る「おはようございます」と挨拶をした。
それとは対照的に平然と表情を変えることなく「おはようございます」と返すデイビーさん。
『ボク、この人苦手』
『アニカは得意な人の方が少ないだろ』
『そうだけど』
『いいから、こっちに座れ』
デイビーさんも無言で手を差しのばして時子の隣へ座るよう促している。
アニカはデイビーさんから目を逸らさないようにジッと見ながら移動して座った。
警戒しすぎだろ。
ホッと胸をなで下ろすと俺に顔を向け、身分証を渡してきた。
『はい、モナカくん』
『ありがとう』
これがデイビーさんの身分証か。
見た感じアニカのと同じだ。
中央省だからといって特別なわけではないのかな。
でもトレイシーさんのは見た目で違いがあったはず。
とにかく、これを返せばいい。
「お返しします。これで間違いありませんか」
「いえ、それではありません」
『おいナームコ!』
『ひぃっ。間違いないのでございます』
『本人は違うと言っているぞ』
『そうでございますね。既にそれはスズ様用に改変済みでございますから』
『改変済み?!』
『でないとスズ様がご利用することが出来ないのでございます。もっとも、使う機会はございませんでしたが』
よく分からないが、つまり鈴ちゃん用にデータを書き換えた後ということか。
借り物を勝手に書き換えるなよ。
……いや、奪ったんだっけ。
「えーと、それで間違いないそうです。ただ……えー、鈴用に改変してしまった後でして……その、すみません」
「なんですって!」
おお? 珍しく感情が顔を通り越して態度に出ているぞ。
そんなに驚くことなのか。
「失礼します」
俺から身分証を受け取ると、フロートウィンドウを出してなにやら操作している。
操作をするにつれ、あの細い狐目が徐々に見開かれていく。
懐から身分証を取りだすと、2枚を並べてまたなにかをし始めた。
ウインドウが2枚並び、それとは別に更に1枚が浮いている。
それらの画面を見ながら見開かれた目がゆっくりと細くなっていく。
それと連動して口が一文字に伸び、眉間にしわができていった。
「本当に……これが……信じられない」
「どうかしたんですか?」
「益々エイル様を中央に迎え入れたくなりました」
「お断りしますっ」
「貴方には聞いていません」
くっ、そりゃ本人の意思が第一だけど。
聞こうにもその本人が居ないからな。
連絡も取りようがない。
「信じられませんが、信じるしかないようです。ご返却ありがとうございます。それと、こちらがスズ様の身分証となります。直接本人にお渡ししたいのですが……」
「すみません。今は船から動けないものですから」
デニスさんの身分証を渡すだけのつもりだったから、鈴ちゃんは水槽に入ったままだ。
受け取るためだけに出てきてシャワー浴びて……とかさせるのもな。
用が済んだらまたドボンだろ。
そんなことさせるのは可哀想だ。
「左様で御座いますか。では、お受け取りください」
「はい」
身分証も受け取り、用件も済んだ。
もういいよな。
次回もまだまだデイビーのターンは続きます