第54話 英雄か犯罪者か
素人相手に無双したところで自慢にもならない。
ただのイジメだ。
大体……
『手を貸すことは過干渉になるから止めなさいって止める側だと思ったぞ』
『確かにそのとおりで御座います。ですがまず間違いなく彼らは救済対象になるでしょう』
『救済対象?』
『やはり魔人との共生は夢物語だったのかも知れません』
『だったらアニカを助けてさっさとここから脱出するぞ』
『いえ、まだ確定ではありません。その為にもアニカ様のご報告が必要なので御座います』
『報告って……アニカは一般人だ。命を張る立場にない』
『おや、ご存じありませんか。精霊召喚術師は1人残らず中央省の管轄なので御座います』
『はあ?!』
『これはオルバーディング家との取り決めで御座います』
『アニカ、今ちょっといいか』
『モナカくん? 今1人でお風呂に入ってるとこだけど……どうかしたの』
『風呂?!』
『儀式の前に身を清めるんだって』
『そっか。それがデイビーが変なことを言っていてな。本当かどうか聞きたいんだけど………………』
『………………そうだね。デイビーさんが言ったことは正しいよ。ボクたちは結界内で唯一の一族。様々な保護を受ける代わりに必要なら力を貸すことになってる。だから中央から指令が本家に行けば、逆らうことは出来ないんだよ。協会の裏庭のこと、覚えてるでしょ』
『ああ』
『あれだけのことをしておいて大事にならなかったのは、兄さんがボクの代わりに中央の指令を受けてくれたからなんだ』
『フレッドが?』
『うん。イフリータが教えてくれたんだ』
イフリータが……か。
あのフレッドがそんなことをアニカに愚痴るわけないからな。
むしろ知られたくないだろう。
『そして結界外にいるこの状況では、アニカ様の指揮権は僕にあります。ご理解頂けましたか』
『理解はした。それでも納得は出来ない』
『モナカ様に納得していただく必要はありません。これは決定事項です』
『船長命令でも聞けないっていうのか』
『ふむ。僕としてもこのようなことは言いたくありませんが、理由はなんであれ勇者の祠を破壊したエイル様の罪を問わなければなりません』
『ナームコ! どういうことだっ』
『な、なにがでございますか』
『とぼけるな! どうせ聞いていたんだろっ。勇者の祠を破壊したってどういうことだっ』
『それはでございますね……アトモス号を出すときに強行発進したからでございます』
『強行発進?!』
『地中に埋もれていたので、仕方なくなのでございます』
『でもそのとき操縦してたの、ナームコさんですよね』
『タイム様?!』
『ほう……つまりエイルは関係ないと』
『さ、左様でございます』
『では、ナームコ様を罪に問えばよいの――』
『はい』
『兄様?!』
『…………ですが、内部を調査した結果、荒らされた形跡がありました』
『それは祠の警備ロボがわたくしたちを排除しようとして暴れたからでございます』
『確かに戦闘の跡がありました。そのことではなく、遺産を盗掘した形跡が見られました』
『それもナームコさんですね』
『タイム様?!』
『では――』
『お願いします』
『兄様ぁ……』
『…………スズ様を――』
『保護したって言ったのはデイビーだ』
『……そうで御座いました』
「ね、助けてくれるの? くれないの? 無視しないで答えてよ」
「………………俺だけだったら構わない。でもみんなを危険に巻き込むのはダメだ」
「モナカにだけ危険なことをさせられるわけないでしょ」
「兄様が行かれるのでございましたら、例え死の果てでも御一緒するのでございます」
「僕は非戦闘員ですので、お待ちしています」
こいつ……
「みんなの覚悟は分かった。全員参加で行くぞ」
「ですから僕は――」
「全員参加だ。安心しろ。頭脳労働だってある」
「…………はぁ。仕方ありませんね」
「それじゃあ……」
「ああ。協力するよ」
「やったぁ!」
「あくまで主役は貴方たちです。僕たちは補佐をするだけです。そうでないとクーデターを起こす意味がありません」
「クーデターって……」
「ではテロ行為でしょうか」
「おい」
「事実です。ですから負けるわけにはいきません。勝てば英雄、負ければただの犯罪者になるだけだと肝に銘じなさい。当然彼らにはその覚悟があるのでしょう。革命とはそういうものです」
「覚悟……」
「それは……」
あれ、なんか雲行きが怪しい?
まさか……
「まさか、無いのですか」
「あるわ」
「私だってある」
「あるわよ」
「……ある」
無理矢理言わせてないか。
「残りの方もあるとよろしいのですが」
「あるに決まってるっ!」
「左様で御座いますか」
やっぱり無理矢理言わせてるぞ。
全く……
「負けることを前提にしていたら先に進めない。勝つことだけを考えよう。デイビーだって結界外調査を最初から失敗すると思って来たわけじゃないだろ」
『例え失敗すると思っていても、指令は絶対遵守です』
『おまえ……』
『……失礼しました』
デイビーは失敗すると思っていながら来ていたのか。
素人集団だし、言うことは滅茶苦茶だし、仕方がないのかも知れない。
でも俺は失敗するとは……失敗させるつもりはない。
「失敗を恐れていては成功を掴むことが出来ない。そういうことですね」
「そうだ。そういうことだからよろしく、ナユダさん」
「よろしく。改めて、私はレジスタンスリーダーのナユダよ」
「……リーダー?!」
「貴方が……ですか」
「前リーダーから委任されたのよ。それくらいの功績は挙げているわ」
「前リーダーはどうされました」
「魔物に襲われて死んだわ」
「左様で御座いましたか。ご冥福をお祈りします」
魔物に……か。
魔神たちに守られていてなお襲われることがあるんだな。
「私はファスト」
「フォースだ」
「ロナシーよ」
「俺はモナカ」
「タイムです」
「時子です」
「う? うー、鈴です」
おー、ちゃんとお名前言えて偉いぞ、よしよし。
「デイビーです」
「ナーム・コカトス・プリスコットでございます」
なんでフルネーム……
「それからここには居ないが、進化の儀に参加させられたのがアニカだ。救出はしなくて大丈夫。なにかあれば連絡も取れる」
「連絡が取れるのか!」
「ああ。今風呂で身体を清めているらしい。それで、俺たちは具体的に――」
「おい、時間ヤバくないか」
「そうね。早く戻らないと不味いわ」
「時間?」
「私たちは空いた時間や仲間の協力でここに居ることが出来ている」
「だから時間が限られてるの」
「あまり長く離れていても魔神たちに不審がられるからね」
「だから今日は解散。戻るわよ」
「じゃ、またね」
「また会えると信じよう」
「今日は有意義だった。次も有意義にしよう」
「気をつけてね」
そう言い残して3人は別々の扉をくぐって出て行った。
……他の場所ってそんなに近かったっけ。
地図にあった建物の場所からして相当距離があると思うんだけど……
まさかこの近くまで地上を歩いてくるなんて目立つことはしないだろうし。
地下道が続いているのか?
よくバレずに作れたな。
「私たちも戻ろう。ここの話は上ではしないでね」
「分かった」
入ってきた扉から出て行く。
地下階段は100段を超えるくらい長いけど、地下道はほぼ無いと言っていいくらいだ。
そうなると一番近い隣の集落までですら4キロはある。
彼らが何処に住んでいるかは分からないけど、往復数時間掛かるんじゃないか?
次回、ニューフェイス登場




