第52話 助けたくない?
なんかナユダさんの顔が少し真面目になった?
気のせいかな。
「ここは私たちレジスタンスの秘密の隠れ家よ」
レジスタンス!
反政府勢力か。
「レジスタンス……反社会勢力ですか」
それはテロリストのことじゃないのか。。
「魔神たちによる支配からの解放をしたいのよ」
「ふむ、解放した後はどうされるおつもりですか」
「え? 私は進化の儀を廃止にしたいだけで、今までどおりで満足してるわ」
「私はこの本に書いてあるような生活がしたい」
さっきのとはまた別の本だ。
「失礼。拝読させていただきます」
「私は好きな人と結婚したいわ。もうあんなのは嫌」
あんなの?
「ふむ、少々文字や言葉遣いが古めかしいですが、大体理解できました」
はやっ! もう読み終わったのか。
速読ってヤツ?
「ここに書かれているものは、大半が勇者世界のことのようで御座います」
「勇者……」
「……世界?」
「その昔、この世界には魔王による圧政から民衆を解放した勇者が居ました。その勇者の故郷で、こことは異なる世界が舞台となっているお話で御座います」
「異なる世界……」
「主人公が死して転生した先が、勇者の故郷である世界のお話で、異世界転生物といわれるジャンルで御座います」
そっか。
この世界だと俺たちが居た元の世界が異世界だからな。
「つまり、転生しないとこの本で書かれてるようなことは出来ない?」
「じゃあ、電列車に乗ったりは……」
「電列車はありませんが、同じような魔車という乗り物があります」
「飛行機は?」
「飛行技術は失われています」
「そんな……」
「え? 貴方方の船は空を飛ぶんじゃないの?」
「なに?!」
「の、乗せてくれっ!」
「あれは特別に許可された者しか乗ることのできない貴重な物で御座います。簡単に許可は出せません」
「おい、それを決めるのはお前じゃなくて俺だ」
「失礼しました。では船長、彼らを乗せてあげるのですか?」
一斉に俺の方を向いて見つめてきた。
うっ、そんな期待に満ちた目をしないでくれ。
「……許可できない」
「何故ですかっ!」
「ちょっとくらいいいではないかっ」
「えっと……デイビーが言ったとおり特別な許可が必要なんだ。それに訓練をしていない者を乗せることは出来ない」
「訓練……」
「どんな訓練をすれば乗せてくれるんだ!」
「そこの年少者でも出来る程度のものなんだろ」
「しつこいですよ。そもそも船長を困らせる時点で乗船資格がありません。諦めなさい」
お前は強引に乗ってきて船長を困らせたんだが。
「鈴が居なければ船が動かないくらい重要な子なんだ。それなのにお前たちは年少者と見下した。そんな奴らを乗せられると思うか」
うう、鈴ちゃんを出しに使うようでちょっと罪悪感が……
「う……」
「言ったのは彼だ。私じゃない」
「連帯責任だ。諦めろ」
「もう、貴方の所為で……」
「すまん」
「あーあ」
こんなんでこのレジスタンスは大丈夫なのか。
「とにかく、私は魔神の支配から解放されたいの。そうすれば少なくとも〝進化の儀〟に選ばれるかも知れない恐怖から逃れられるわ。だから協力して欲しいの」
「協力?」
「そう。だからまずは私たちが貴方方に協力するわ」
「どんな?」
「あのアニカって子、助けたくない?」
「誰だそれは」
「彼らの仲間で、進化の儀に選ばれた子よ」
「……なんだって?」
「進化の儀に選ばれた?!」
「私たちの中からではなく?」
「そうよ」
「うーむ、ますます選考基準が分からなくなった」
「で、どうなの?」
「そりゃ助けたいけど……」
本人が大丈夫と言っているんだし、いざとなったら精霊が付いている……はず。
時子が元の世界に戻りたいと強く願っていないみたいだし、なにより離れているから精霊たちが助けてくれるだろう。
「〝進化の儀〟なんて言ってるけど、本当は猛毒な食べ物を食べさせてるだけなんだ」
「猛毒?!」
『恐らく毒素のことでしょう』
『あ、ああ。そっか』
毒素を取り込むことで人間が魔人になるんだった。
ということはやっぱり魔神は……
「そう。その毒に耐えられなくて死んだ人間を魔神たちが食べてるの」
「食べている?!」
『魔人は人を食します。驚くようなことではありません』
『あ、ああ。そっか』
結局魔神も魔人ということか。
「あくまで噂だ。証拠は無い」
「私は毒を食べさせられて死ぬのも、その後食べられるのも、魔神になって人を食べるのも絶対に嫌!」
なるほど。
今の生活に不満がないのに、レジスタンスなんかに入っているのはそういう理由なのか。
「貴方たちは家畜を育てています。彼らを食べることに抵抗は無いのですか?」
「……なんの話?」
「家畜は食べるために育てている。だから食べるのは当たり前だ」
みんな頷いている。
そうだよな。
家畜であってペットじゃないんだから、肉にして食べたり毛皮をなめして使ったり、毛を刈り取って紡いで服にしたり、そういう風に利用するのが当たり前だ。
「左様で御座いますか」
「なにが言いたいんだ?」
「いえ。家畜は食べるために育てている。その認識でよろしいでしょう」
「変な人」
次回は無双します




