第50話 パンはパンでも……
「さ、焼けたよー。人数分有るからね。あー熱いから気をつけて」
「あっつ!」
「もー落ち着いて。パンは逃げたりしないぞ☆」
焼きたてのパン……ホットケーキ? が食べられるとはな。
いや、多分昨日食べた塊も焼きたてだったんだろうけど。
温かかったし。
……あれ。
テーブルがあるのに4人とも床に座ってる。
本当にテーブルで食べるのは行儀が悪いんだ。
ならなんのためのテーブル?
パンをこねるため?
とにかく俺たちも床に座って食べるしかないか。
「鈴」
太ももをパンパンと叩いて椅子に座っている鈴を呼び寄せる。
椅子から飛び降りて小走りでやって来ると、あぐらをかいている俺の太ももにチョコンと座った。
「えへへ」
んー、可愛いなぁ。
「それじゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
「……なんだって?」
「作ってくれた人に感謝してるんだって」
「私たちに感謝してるってことか?」
「そうなんじゃない?」
「ふーん。変わった人たち」
「でしょ」
本当にここだとそれが当たり前なんだな。
仕事はして当たり前。
感謝する必要はないって。
「でも悪い気はしないぞ」
「……そうね」
「そう? 私はなんとも感じないわ」
「貴方はここの生活が好きだからじゃないか」
「そうなのかな」
「とにかく食べてみよう」
「そうだね」
「イタダキマス?」
「ぷふっ、自分で作ったのに感謝するの?」
「なんとなく言ってみたかっただけだ」
「ふーん。それで?」
「ふむ、感謝とかは分からないが、食べるぞって気分になった」
「それっていつもとなにが違うの?」
「いつもは腹に入れるだけだが、今は食べるって気分なんだ」
「それって同じことでしょ」
「いや、全然違う」
「ふーん。ま、いいや。食べよっと」
「イタダキマス」
「イタダ……キマス」
「貴方方まで言うの?!」
「ものは試しよ」
「ナユダも言ってみたらいい」
「私はいいよ。んー、でもこの平べったいパンはいつもよりいい匂いがするわ」
「それにこれ、柔らかいぞ」
「いつもはカチカチなのにね」
「ホントだ。おお?! いつもは2つに割れるのに、これは裂けたぞ」
「外はカリカリ、中はシットリしてる」
「じゃ、食べるわよ」
「おう」
「ええ」
「ああ」
あれ、齧り付いた途端に静かになっちゃったぞ。
なんか黙々と食べている。
どれどれ……んー、匂いはいいな。
裂けるというか、千切れる感じ?
でもホットケーキ? を千切って食べるのは新鮮だな。
「パパぁ、フォークとナイフは?」
「ベーカー、あるか?」
「あるわよ。はい、鈴ちゃん」
「ありがと」
お?
サツマイモのほんのりとした甘さがいいな。
でも……ホットケーキにしては弾力がありすぎる。
結構噛み切るのが大変だ。
これをものともせず食べているのか。
顎が強いんだな。
「んー、むーっ」
あーやっぱり鈴ちゃんにはキツかったか。
どうする?
まさか俺が噛んだヤツを食べさせるわけにもいかないし……
とりあえず一口大に切ってやるか。
次回、パンの次は?




