第4話 身分証
「話は変わりますが、僕がここに来た理由をお話ししましょう」
「理由? 予言者に言われて外のことを聞きに来たんじゃないんですか?」
「それもあります。ですが、本題ではありません。報告を受けるだけでしたら、協会経由でも問題はないでしょう」
なるほど。
確かに身分証の解析も持ち帰らず協会にやらせている。
なら本題はなんだ。
やっぱりナームコのことか。
いや、鈴ちゃんのことかも知れない。
「スズ様の身分証をお持ちしました」
「鈴の?」
そういえば、ナームコと違って取りにいっていなかったな。
わざわざ届けに来たっていうのか。
それこそ協会経由で渡せるようなものだ。
手渡しする必要は無い。
「ですので、奪われた……失礼。お貸しした僕の身分証をお返し願いますか」
一瞬物騒な単語が聞こえた気がするんだけど……
というか、〝お貸しした身分証〟?
「どういうことでしょう?」
「エイル様からお聞きになっていないのですか」
「エイルから? いえ、なにも。いつの話ですか?」
「スズ様を勇者の祠から連れ去った……失礼。保護されたときで御座います」
また物騒な単語が聞こえた気がするんだけど……
というか、〝鈴を保護したとき〟か。
となると……
『ナームコ、聞こえるか』
『聞いていたのでございます』
『聞いていた?』
『身分証でございましたら、わたくしがお預かりしているのでございます』
〝聞いていた〟ことはスルーかよ。
『アニカ、持ってきてくれ』
『兄様、わたくしが――』
『ダメだ』
『兄様っ!』
『あはは。どうしてボクなんだい?』
『アトモス号の留守を任せられるのはナームコしか居ないんだよ』
とおだてておかないとな。
『ああっ、兄様からの深い信頼に気づけない可愛い愚妹をお許しください』
よし、これで毎回留守番という名目で置いていける。
『ということでアニカ、よろしく』
『しょうがないな』
「今持ってきます」
「今……ですか」
「はい」
「それはこのイヤホンというもので連絡を取ったのですね」
「あっ、どうしてそれを持っているんですか」
「ロロー兵長のものをお借りしました」
そういえばロローさんに渡したままだった。
「取り上げたんですか」
「お借りしただけです」
あくまでそういう体裁か。
「本当ですよ。解析が終わればお返ししようと思っています。ですが……」
「つまり、解析が出来ないと?」
「既存の魔法道具のどれとも違います。さすがあれだけ法外な額をふっかけてきただけのことはあります」
法外な額?
あいつ、これを中央省に売ろうとしていたのか。
『違うよ。売ろうとしていたんじゃなくて、レンタルしようとしてただけだよ』
『タイム、知っていたのか』
『うん』
レンタルね……
どっちにしても同じだ。
といってもエイルのことだ。
こっちと混線しないようにするくらいは簡単だろう。
逆に中央省の盗聴に利用しそうで怖い。
ん? タイムのアイコンが目を逸らしたぞ。
まさかもう既に?
汗まで垂らし始めやがった。
これは確定だな。
……だったら今日この場にデイビーさんが居ることを教えてくれてもいいだろうに。
ハッとした顔をするな。
これじゃ盗聴できても意味が無いだろ。
次回は珍しい顔つきが見られるようです