第47話 馬小屋の先へ
まさか進化の儀にアニカが参加することになるとは……
成功して魔神になるのも、失敗して死ぬのもどっちも嫌なんだけど。
そんなことにはならないって本人は言っていたけど、大丈夫なんだろうか。
「ナームコは賛成なのか?」
「男の決断に口を挟むほど無粋な女ではない…………のでございます」
男の決断……か。
「そっか。俺は無粋だったか」
「いえ、決してそのようなことは思っていないのでございます。兄様はあくまで船長としてみんなの生命を預かる身として純粋に――」
「分かっているって。困らせるようなことを言って悪かった」
「兄様……」
この件についてはアニカに任せよう。
鎌鼬も付いているみたいだし。
「モナカはアニカを助けたいの?」
「え?」
「モナカはアニカを助けたいのかって聞いてるの」
「ナユダさん?」
いつもの元気な女の子って感じが消えたぞ。
なにその真剣な顔は。
「急にどうしたの」
「答えて」
「そりゃ、儀式になんか参加してほしくないよ。どっちに転んでもいいことないし……って言うのは失礼か」
ここの人は死のリスクを背負ってまで魔神になりたいみたいだし。
「ううん、そんなことない。私もそう思うから」
「え? どういう……」
選ばれなかったことを残念とか言っていなかったか。
「来てほしい場所があるの。付いてきて」
「何処へ?」
「来れば分かる」
「……分かった」
『行くの?』
『急に態度を変えた理由が分かるかも知れないから』
『そうですね。なにか訳がありそうです』
『そっか』
「こっちだよ」
付いていった先には馬小屋があった。
馬たちはみんな外で草を食べたり走ったりしていて、中には1頭も居ない。
うーん、馬糞臭い。
「こっち」
まだ先があるのか。
馬の寝床を綺麗にしている人が居る。
「ナユダか。どうした?」
知り合いらしい……って、当たり前か。
「〝下〟に彼らを連れて行く」
〝下〟?
「なに?! ……大丈夫なのか?」
「ええ」
「そうか。貴方の判断だ。従おう」
そう言うと、辺りを見渡してから手に持っていたフォークのお化けのような道具で、寝藁をかき分け始めた。
すると床に扉が現れた。
隠し扉?
「さ、早く入ってくれ」
「ありがとう。入りましょう」
「ちょっと待て。神獣はダメだ」
え、フブキダメ?
「ダメですか?」
「当たり前だ」
仕方ないな。
「じゃあ俺はフブキとここで――」
「あなたが居なくてどうするのよ。船長でしょ!」
「しかしな……」
う、鈴ちゃんがジッと見つめている。
「あーいや、喧嘩じゃないからね」
「そうよ。バカなことを言ってるパパを叱っただけだからね」
「あのな」
「事実よ」
時子に攻められ、鈴ちゃんに見つめられ、これじゃ諦めるしかないじゃないか。
「ごめんなフブキ」
「わうー」
「鼻が曲がるって? そうだよなー、チラッ」
「…………」
ダメだ。
時子はあくまで置いていく派。
味方じゃない。
「我慢してくれ」
「わふぅ」
「パパ?」
「彼らは自分の両親が誰なのか分かるんだって」
「……マジか」
「うん。だからきっと」
「そうだな。そうだといいな」
両親が分かるからなんだっていうんだ?
ここでは分からないのが普通なんだろ。
隠し扉といい、きな臭くなってきたぞ。
次回は勇者小説です




