第46話 アニカの決断
進化の儀……か。
それが魔神と魔人の差を生むのかな。
でも適性が無ければ死ぬんだろ。
それをナユダさんやここの人たちはなんとも思っていないのか?
俺だったら立候補も推薦も嫌だぞ。
本来なら止めるべき案件なんだろうけど、デイビーがそっちに舵を切ろうとしない。
知的好奇心が勝っている?
「では立候補でも推薦でもなく、魔神様が選出するのですね」
「そうだよ」
好奇心というか、調査の一環?
共生の真実を見極めるためなら多少の犠牲は……なんだろうか。
「ふむ……拒否は出来ないのですか」
「へ? なに言ってんの。魔神様になれるかも知れないんだよ。拒否した人なんて居ないよ」
「そうですか」
「死ぬかも知れないのに?」
「当たり前だよ。今回も私は選ばれなかったんだー。残念」
死ぬことすら恐れていない?
それとも自分には適性があるって信じているのかな。
「さ、ここが進化の儀が行われる場所だよ」
場所……といっても特別なにかが設置されているとかはない。
逆になにもない? と言っていいくらい、ただの空き地だ。
そんな場所で儀式?
「ナユダか。彼らを連れてきたのか」
「ワン様! はい、進化の儀を見学にと思いまして」
「そうか。今日はここで〝進化の儀〟を執り行う。見学するのは構わないが、邪魔はしないでくれ。私たちにとってとても大切なことなんだ」
「ワンさんもこの儀式をしたんですよね」
「そうだ」
「死ぬのは怖くなかったんですか?」
「ん? 私は生きてるぞ」
「いえ、適性が無ければ死ぬんですよね」
「そうだな。あのとき魔神になれたのは私だけだった。他の者はみな死んだよ」
「他の……何人かが参加するんですか」
「1人のときもあれば、10人になったこともある。何人参加させるかはあい……王が決めている」
「ほう。では参加させる人間も魔神王様が?」
「いや、あ? ああ、それは教えられない」
「教えられない……とは?」
「人間が知る必要は無い。知ってしまったら選ばれたいが為にそう行動する者が現れるからな」
「なるほど。了解しました」
日頃の行い次第ってことか。
誰もが参加したいのなら、条件を知っていればそれを満たそうとするのは当たり前だろう。
それってなにか不都合があるのか?
「なに? 外の者をか?!」
ん? いきなりなんだ。
「……分かった。アニカは居るか?」
アニカ?!
「え、ボク? なんでしょう」
「貴方は〝進化の儀〟の参加者に選ばれた。一緒に来てもらおう」
「は?!」
一体なんの話だ。
「ボクが選ばれた?」
「凄い! 選ばれるなんて凄く名誉なことだよ。羨ましいなぁ」
「どういうことだ!」
「あいつが決めたことだ。私は理由まで知らん」
「王が? そんなん、参加させられるわけないだろっ!」
「断るのか?!」
「当たり前だ! みんなの命を預かる者として許可できない」
「貴方はどうなんだ」
「ボク……ですか」
「やはり断るつもりか」
「当たり前だ」
「貴方には聞いてない。どうなんだ」
「ボクは……」
当然断るよな。
ん? 俺を見て笑った?
「ボクは参加しますっ」
「アニカ?!」
「アニカさん?!」
「ご主人様?!」
「ふむ」
「…………」
なに考えているんだ。
俺たちが参加する意味なんて無いんだぞ。
デイビーは〝許可できません〟とか言わないのか?
ナームコもなに黙って見ているだけなんだよ。
『アニカ!』
『大丈夫だよ』
『なにが大丈夫なんだ』
『デイビーさん、〝進化の儀〟について潜入捜査してきます』
『ありがとう御座います』
『〝ありがとう〟じゃねえ! なんで止めないんだよ』
『なにをするのか、興味ありませんか』
『アニカがどうなってもいいって言うのか』
『質問の答えになっていません。興味はないのですか』
『その為にアニカを犠牲にしていいのかって話だ!』
『つまりモナカ様も興味自体はある……と捉えてよろしいですね』
『ねぇよ!』
『そうですか。しかし中央省としてはとても興味深い案件です。アニカ様、よろしくお願いします』
『分かりました』
『アニカ!』
『大丈夫。ボクは死にに行くんじゃないよ』
『魔神になられても困る』
『あはははは、そうだね。大丈夫、魔神にもならないよ』
『どうして言い切れる!』
『だってボクには精霊の加護があるから』
『加護って……今は無いだろうがっ』
『その心配はないよ。トキコさん、元の世界に還りたいですか?』
『なにを急に』
『それは……出来れば帰りたいけど、今は帰れないよ』
『時子……』
『そういうことだから大丈夫』
『なにが大丈夫なんだ。みんなの手前、言えないだけかも知れないだろ』
『その心配はないよ。だって〝ご主人様〟には絶対服従がルールなんだから、嘘はつけない。精霊ならお願い程度は抗うことが出来るけど、抗い方を知らない人間は……試してみようか?』
『止めろっ! 分かった。それは信じるよ』
思い出した。
それで以前大変なことになったんだっけ。
だから2人は普段から極力会話しないようにしていたんだった。
『でも、本当に大丈夫なんだろうな』
『ボクが信用できないのかい?』
『そういう問題じゃ――』
『そういう問題だよ』
『……信用はあまりできない』
『えー』
『精霊に命令できない精霊召喚術師の全てを信用しろっていうのは無理があるだろ』
『うー、意地悪。じゃあ精霊たちを信用してよ』
『……分かった』
『えー』
『不満なのかよ』
『ボクは信用してくれないのに精霊は信用するんだもん』
自分で言っておいて、なにを言い出すんだ。
『当たり前だ』
あいつらのアニカに対する思いは、アニカ以外疑うヤツなんて居ないぞ。
『ぶーっ』
『勘違いするなよ。アニカが信用できないって言っているわけじゃない』
『ふふっ、ありがとう。じゃ行ってくるね』
『気をつけてな』
「……話し合いは終わったのか?」
「……なんのことだ」
「隠すな。貴方方も私たち同様念話が出来るんだろ」
念話?!
やっぱりそれで王様と話していたのか。
念話じゃなくてイヤホンのお陰なんだが……まあいい。
訂正するほどのことじゃない。
「やっぱり魔神たちも出来るのか」
「〝やっぱり〟?」
「そうじゃないかとは話していたんだ」
「そうか。まぁ、隠すようなことではない」
「隠す必要があるのは会話内容だからな」
「どっちかっつぅと、遠くの者と話すのに必要なんだが」
「……っはは。そうだな」
「で? 参加するんだな」
「はい、お願いします」
「よし、ついてこい」
「はい」
「アニカ……気をつけてな」
「大丈夫。例え死んでもまた出会えるよ」
「アニカっ!」
「冗談だよ。ね、鎌鼬」
鎌鼬?
あいつ居るのか。
……姿は見えない。
ただ少し強い風が纏わり付いて離れたような気がする。
とても心地いい優しい風だった。
アニカのこと、頼んだぞ。
次回、態度が変わります




