第44話 元祖 ツルの恩返し
この村の朝は早いらしい。
いや、早くはない……のかな。
日が昇る頃、みんなは起きていたらしい。
日が沈んだら寝て、日が昇る頃に起きる。
実に健康的なことなのでは……と思う。
それを考えると昨日の夜はかなり遅くまでナユダさんを付き合わせたことになる。
申し訳ないことをしてしまった。
今日は早めに切り上げるようにしよう。
俺たちはというと、寝るのが早かったこともあり、寝坊すること無く起きることが出来た。
俺を除いて。
「あ、モナカやっと起きた」
「ごめん。寝坊したみたいだ」
「いいって。モナカは仕事が無いんだからまだ寝てても平気だよ」
「いや、起きるよ」
身体はかなり疲れているはずなのに、寝て起きたらすっかり取れていた。
これもナースが体調管理をしてくれている効果なのか。
頭もかなりゴチャゴチャしてたけど、こっちも随分とスッキリしている。
……まさかこっちも?
電脳化しているって言っていたし……まさか、ね。ははは……
「パパ、おはよう!」
「ああ、おはよう」
時子に絵本を読んでもらっていた鈴が駆け寄って抱き付いてきた。
段々行動が子供っぽくなっているような気がする。
いい傾向だ。
後は〝鈴は要らない子〟って思わなくなってくれればなー。
「絵本読んでもらっていたのか?」
「うん! ツルの恩返しー」
あれかっ!
「でもタイム伯母さんが話してくれた内容と全然違うの」
「そうなんだ」
そりゃそうだ。
「与平の家に機織りがあったんだよ」
「へぇー」
無いと話が進まないからな。
「お母さんが昔使ってたんだって」
「おー」
なるほど。
そういう裏設定があったのか。
「それでねそれでね、旅の女の人がそれで布を織るんだよ」
「ふーん」
そういう話だからな。
「でも布を織ってる姿は見ちゃダメなんだって」
「なんでかなー」
「ふふっ、それは後のお楽しみ」
「楽しみだなー」
ほう、ネタバレはしないのか。
「でね! 凄く綺麗な布でね、麓の町で高く売れたんだよ」
「よかったねー」
布の材料は何処から調達したのかな。
羽根100パーセント……なのか?
「でも布を織る度に女の人はやつれていくの」
「大丈夫かな。心配だね」
織る度に自分の羽根が抜けていくんだからそうなるか。
「うん。だから与平も心配になって、覗かないでって約束を破って中を覗いちゃったの」
「覗いちゃったんだー」
そりゃ気になるよな。
「でねでね、その女の人が実は…………ふふーん、助けた鶴だったんだよ! 鶴が布を織ってたんだよ!」
「マジかっ!」
〝ツルの恩返し〟だからな。
あの鳥の羽でどうやって機織りを動かしていたのかは問わないでおこう。
そんなことを聞いたらこのドヤ顔が一気に崩れそうだ。
「鶴がシベリアに帰らなかったんだよ!」
「帰らなかったんだー」
そりゃそうだ。
物語の主人公が居なくなったらダメでしょ。
「でもね、身バレしたからもう一緒には居られないって出て行っちゃったの」
「身バ……そっかー」
正体がばれたらダメっていうのは、昔話が発祥なのかな。
誰も知らないし、知られてもいけない。
なにも言えないし、話してもいけない。
知られてしまうと罰を受けることになるのも定番だ。
動物に姿を変えられたり、死ぬまで変身した姿から元に戻れなくなったり、単純に力を取り上げられるだけの場合もある。
相手の記憶を消すなんて強引な手段もあったな。
この場合罰を受けたのは鶴? それとも与平?
「悲しいお話だね」
「そうだねー」
そう考えるとタイム伯母さんの話の方がよかったのか?
「どっちのお話の方が面白かった?」
「どっちも面白かったー!」
「そうか。どっちもか」
「うんっ!」
ならよかった。
次回、両親の収入差




