第39話 修行開始
『時子、戻ったら先に寝ていてくれ。俺はちょっと用があってまた外に出るから』
『……私も一緒に行く』
『別に何処かに行くわけじゃない。タイムに……サムライに用があるんだ』
『拙者でありんすか?!』
『ああ』
『承知したでありんす』
『……分かった……鈴と先に寝てる』
『ありがとう』
デニスと戦って痛感した。
俺は弱い。
少しは強くなれたかと思ったけど、オオネズミ相手に無双できても自慢にすらならない。
だから強くならなきゃいけないんだ。
模擬戦もいいけど、やっぱり基本から習わないとダメだ。
「ナユダさん、俺は寝る前にやることがあるからまた外に出ます」
「そうなの? じゃ、私も付いてくね。また騒がれても困るから」
「ごめんなさい」
「いいって」
「これも仕事だから?」
「そうだよ」
仕事か……
仕事を増やしちゃったな。
外は大分暗くなってきた。
明かりは無い。
月明かりもあまり頼りにならなさそうだ。
「それじゃサムライ」
「殿、なんなりと命ずるでありんす」
「うわっ! え? だ、誰? 何処から出てきたの?」
「ナユダ殿、お初にお目に掛かるでありんす。拙者はサムライのタイムでありんす」
「サムライ? てなに?」
「剣士でありんす」
「ケンシ?」
「この刀で殿を怨敵から守る者でありんす」
「カタナ? ふーん、随分と細長い包丁だね」
「包丁……そうでありんす。それでは殿、まずはお復習いから始めるでありんす」
「おい、まだなにも話していないぞ」
「稽古を付けてほしいという話ではないのでありんすか? ま、まさか拙者と恋仲に?! それは嬉しいでありんすが、タイム殿を差し置いて拙者などと……」
「そうなの?!」
「タイムまでなに言っているんだよ。稽古でお願いします」
「それはちと残念でありんす。あいや、殿には時子殿が居られましたな」
「あ、いや、それは……」
「はっはっは。冗談はこのくらいにして、早速始めるでありんす」
冗談かよ。
「お、おう。お願いします」
「殿はデニス殿に基本をご教授されていたでありんす。覚えているでありんすか?」
「勿論だ」
「では、少し修正をしてお復習いするでありんす」
「何処か間違っていたのか?」
「デニス殿がご教授されたものは峰の無い両側に刃のある剣の使い方でありんす。片側にしか無い刀とは少し違うのでありんす。決して間違いではないのでそのままでも問題は無いのでありんす。そのままにするでありんすか?」
「そうだな。折角教わったんだし、問題が無いならそこはそのままでいいだろう。悪いな」
「殿が選ばれたこと故、拙者が口を挟むことではないのでありんす」
サムライに教えを請おうとしているのに、他の人の教えをそのままにするのはよくないかも知れない。
それでもこれはこのまま残しておきたい。
俺の我が侭……だよな。
「それで、まずはなにをすればいい?」
黒埜をスマホから抜き、正面に構えてみる。
素振りか?
それとも型か?
いきなり模擬戦は無いだろうけど……
次回、話が違うぞ




