第35話 仕事量は同じでなければならない
でもデイビーは偉いよ。
俺なんかありがとうって言えなかったからな。
後はゆっくり風呂に入って休んでくれ。
「ふふっ、本当に変な人たち。じゃ、次は貴方の番だね」
休んでいる暇はなさそうだ。
「……僕の番とはどういう意味でしょう」
「ん? 洗われたら洗い返すのが貴方たちの規則なんでしょ? はい、セッケンとタオル」
そんなルールは無い。
無いけど、面白そうだから黙っていよう。
「セッケンとタオル……僕に貴方を洗えとおっしゃるのですかっ」
「耳元で怒鳴らないでよ、もー。早く洗って。時間なくなっちゃう」
「無理ですっ。妻以外の女性に触れられることすら破廉恥だというのに、僕が自らの意思でその肌に触れるなど、言語道断ですっ」
「? 私は貴方の肌になんか触ってないよ。タオルで擦っただけでしょ」
なるほど。正論だな。
でも身体を押さえるために触っていたような……黙っていよう。
「屁理屈を言わないでくださいっ」
「本当のことを言っただけだよ。ほら、はーやーく!」
「ああ、妻になんて言ったらいいか……」
「そんなの言わなきゃいいだろ」
「僕は船長と違ってそんな不誠実なことは出来ませんっ」
「誤解を受ける言い方をするな!」
ったく。
でも文句を言いながらも洗ってやるのか。
律儀だな。
〝そんな規則はありません〟とか言って回避すればいいのに。
それだけテンパっているのか。
「終わりました。後は御自分で洗ってください」
「背中しか洗ってないじゃない!」
「勘弁してください」
「なんでだよ。私の方が仕事量多いじゃないかっ。ちゃんと同じだけやって!」
「船長!」
「お前は都合の悪いときだけ俺を船長呼びするのかっ!」
「もー、動いたら流せないよ」
「はい、申し訳ない。大人しくします」
「モナカ様! 代わってください。お願いしますっ」
まさかお願いされるとは……
仕方ないな。
「貸しだからな」
「ありがとうございます」
「なに、モナカが洗うの?」
「はい。少し待っていてください」
「しょうがないなぁ。早く入りたいのに」
「はいパパ、終わったよ」
「はい、ありがとうございます」
「もーいっぱい動いて。パパは悪い子ですね」
「はい、申し訳ございませんでした」
「うん。ちゃんと謝れてパパは良い子ですね。よしよし。ふふふふっ」
「ふふふっ」
「きゃはははは」
「っはははは。じゃ、ママとお風呂に入ってなさい。パパは我が侭な船員の尻拭いをしないといけなくなっちゃったから」
「はぁーい。ママー!」
「コラッ。走ったら危ないでしょ」
「はい。ごめんなさい」
「うん、ちゃんと謝れて鈴は良い子だね」
「えへへ」
さてと。
デイビーの代わりに洗いに行きますか。
代わりになにをしてもらおうかなー。
「お待たせ」
「ホント、待ちくたびれたよ」
「すみません。ではモナカ様、後はお願いします」
「高いからな」
「う……お手柔らかにお願いします」
それは聞けないお願いだな。
「えーと、背中は終わっているんだっけ」
「そうだね」
「じゃ、残り洗いますね」
「はい」
デイビーの気持ちも分からなくもない。
俺だって最初は抵抗があったさ。
でもアニカにやらされて慣れたもんだ。
普段どおりにちゃっちゃと終わらせよう。
慣らされた……とは言ったが、アニカは出るとこ出てなかったから楽だった。
でもエイルのときは出るとこ出てたから洗いにくかったな。
その点ナユダさんは出てはいるけどエイルほどじゃない。
その分洗いやすいぞ。
大きいのを経験しておくとコツが分かりやすくて……ん?。
汚れ……じゃないな。
もしかして入れ墨か?
左胸の少し上、鎖骨の下辺りに小さな記号のようなものがある。
言語相互翻訳で文字変換されていないから、特殊な記号かなにかか?
……よし、こんなもんかな。
「じゃ、流しますね」
「はい」
ふう、これでやっと風呂に入れるぞ。
「ぷあっ。じゃ、先に行くねー」
あっ、走って行っちゃった。
おいおい、飛び込むのかよ。
あー、デイビーに絡みに行ったのか。
そこまでは責任持てないからな。
次回、ただの看板ではありません




