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携帯は魔法杖より便利です 第5部 歪な共生  作者: 武部恵☆美
第2章 違いを知るためには
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第34話 身体を洗いましょう

 脱衣所から風呂場に入るんだが、時子の言ったとおり入り口に男女の区別が無い。

 というか脱衣所に入るときもそうだったが、壁一面に引き戸が並んでいるだけになっている。

 区別以前の話だ。

 100人が一斉に入るんだ。

 扉1つで出入りしていたらそれだけで時間が過ぎちまうから当然か。

 理に適っている……といえば適っている。

 引き戸を開けると再びタイムが真ん中にサーッとカーテンを引いてくれた。


「タイムも一緒に入らないか?」

「?! ………………」


 んー、[探さないでください]看板が一瞬ピクついたけど、それだけでダンマリか。

 根が深いな。


「モナカくん、遅いよぅ」

「っははは、悪い」

「ね、久しぶりに身体洗ってあげるよ」

「え? いいよ」

「えー?! なんでだい!」

「扉も開けられたし、ここなら魔力が無くても大丈夫だろ。ほら」


 実際に置いてあったセッケンを泡立てて見せた。

 水道は……無いな。

 代わりにお湯が用水路のように流れている。

 ここから桶を使って汲むのかな。

 なので魔力は必要無い。


「な」

「うう……でも……」

「パパーっ」

「はいはい、今洗ってあげるからね。洗ってもらうとしても、それは鈴の役目だよ」

「うんっ! 鈴、パパの身体(かやだ)(あや)ってあげ()!」

「そういうことだ」

「モ……モナカくんのバカッ!」

「アニカ! 走ったら危な――」

「ひゃあ!」


 あー言わんこっちゃない。

 盛大にすっころんだなー。

 あー尻を打ったらしい。

 馬車で瀕死の尻に自らトドメを刺すのか。


「じゃ鈴、洗うから大人しくするんだぞ」

「はぁーい」


 おー、大分子供っぽくなってきたな。

 初めの頃とは全然違う。

 よく笑うようになったし。

 でも根本の問題は根強く残ったままだ。

 それが解決しない限り、本当の笑顔とはいえないのかも知れない。


「よし、流すぞー」

「うんっ」

「はい、ザバー」

「あははは、ザバァー」

「よぉし、綺麗になったぞ。大人しく出来て偉いな。よしよし」

「えへへへ、あ()がと。今度は鈴の番ー!」

「ああ、お願いします」

「お願いさ()まぁす。ふふふふふ」

「ねぇねぇ、私も洗っていい?」

「ナユダさん?!」


 カーテンの向こう側に居たはずなのに……

 自由だなぁ。


「なんか笑い声が聞こえてきて楽しそうだからさ」

「貴方! 女性はあちら側ですよ」

「なにそれ。そんな規則はここにないよ。それにアニカ……だっけ。こっち側に居るじゃないか」

「それは……そうかも知れませんが」

「デイビー、ナユダさんはここの人なんだ。俺たちのルールを押しつけるな」

「う……りょ、了解しました」

「なんかモナカを洗うよりデイビーを洗った方が楽しそうだ」

「ひぃ! お断りしますっ」

「えー、遠慮するなよ。ほらほら」

「いやー、止めてくださいっ」

「っはははは。デイビー、観念して洗ってもらえ」

「嫌です。助けてください」


 拒否しただと?!

 とはいえここは俺たちのルールで縛れるものじゃない。


「無理」

「船長!」

「風呂場で走るな! それこそルール違反だ。まったく、往生際が悪いぞ」

「うう。これは浮気じゃない。これは浮気じゃない。ああ神よ、罪深き僕を許し給え」


 神に許しを得なければいけないほどのことなんだ。

 それだけ奥さんを愛しているということか。

 それとも余程の恐妻家……いや、そんなことはないと信じよう。


「ちょっ、背中だけで十分です。前は自分で出来ます」

「えー、遠慮するなよ。ほらほら」

「きゃーっ!」

「騒ぐな」

「ですがっっ」

「パパ、大人しくして」

「ああ、ごめんよ」


 なんだろう。

 初めてエイルに身体を洗われたときを思い出すな。

 確かあんな感じだったような……ということは。


「止めてください、そこは自分で洗います」

「ダァメ。ちゃんと洗わないと汚いよ」

「ですから自分で……いやーっ」

「五月蠅いぞ!」

「パパー!」

「ごめんごめん」


 やっぱりそうなったか。

 気持ちは分かるぞ。

 でもな、諦めが肝心なんだ。


「モナカは洗われてるぞ」

「えっ! あ、貴方は子供になにをさせてるんですかっ」

「んあ? ……あー」


 そういえばそうか。


「鈴、そこは自分でやるからいいぞ」

「でもパパも鈴のおまた洗ってくれたもん」

「そっかー。だそうだ」

「だそうだじゃありませんっ」

「しつこいぞ」

「もー、動いちゃダメでしょ! メッ」

「あはは、ごめんなさい。デイビーも動いたらダメだぞ」

「無理を言わないでください。ああ、ドンドン(けが)れていってしまう……」

「なにいってんだ。ちゃんと洗ってるから綺麗になってるぞ。手抜きなんかしてないからな。大体貴方が暴れなければもっと手早くもっと綺麗に出来るんだぞ」

「そういう意味ではありません……あぁ」


 漸く大人しくなったか。

 さすがのデイビーもお手上げらしい。


「ほら、終わったよ」

「うう……ありがとう、ございま……うっ、くっ」


 一応感謝はするんだ。

 最後まで言えてなかったけど。

次回は貸しを作ります

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