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携帯は魔法杖より便利です 第5部 歪な共生  作者: 武部恵☆美
第2章 違いを知るためには
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第27話湯船とは一体……

 夕飯か……

 俺たちも船に戻って仕度をするか。


「それじゃ、食事を用意してくるから待っててね」

「えっ」

「ありがとうございます」


 デイビーは貰う気満々だな。

 確かにここの食事事情を知るいい機会だ。

 断る理由なんてない……といったところか。

 ……ここで待っていればいいのか?


「あっそうだ。ワン様、神獣様のお食事はどう致しますか?」


 神獣様って、フブキのことだよな。


「そうか。ナユダでは用意できなかったな。私の方でなんとかしよう」

「お願い致します。それでは」


 どういうことだ?


「ワン様、フブキ様のお食事は私たちと同じ物でよろしいのでございます」

「………………あ?」

「ワン様、フブキ様のお食事は私たちと同じ物でよろしいのでございます」

「すまんが、貴方がなにを言ってるか分からないぞ」


 そうだ。

 ナームコだけ言語が違うんだっけ。

 ……また俺が通訳しなきゃならないのか。


通訳者(タイム)が通訳します」

「おお? 貴方は……タイム……いやライム? いや、私の肩に乗るな! 神気に当てられるぞ」

通訳者(タイム)です。神気に当てられる心配はありません。ご安心ください。ワン様、彼女は……」


 服装は違うけど、区別つかないよな。

 普通そんな何人も居るなんて思わないだろう。


「……なんだと? 貴方たちのところの神獣は人間と同じ物を食ってるのか」

「味付けは薄めでございますが、概ね同じ物なのでございます」

「そうなのか。本当に違うことが多いんだな」

『ワンさんが用意してくれるってんだから、それでいいんじゃないか?』

『それは()めた方がよろしいのでございます。恐らく、魔獣向けのお食事でございましょうから』


 魔獣向け……なるほど。

 確かにそれはまずいな。


「ナユダ、聞こえてたな。そういうことだ」

「かしこまりました」

「それとスズ様を先に洗わせて頂いてもよろしいでございますか?」

「んあ? 風呂場は使わせられないぞ」

「承知しているのでございます」

「構わないが、監視はするぞ」

「ワン様は幼子の裸にご興味がおありなのでございますか?」

「ナームコ、なに言っているんだ」


 失礼にもほどがあるだろ。

 とはいえ、幾ら監視のためとはいえ、堂々と〝見るぞ〟と言えるのも凄いな。


「興味? そうだな……」


 え、あるの?!


「王が言うような猛毒を被ってるのによく生きてるな、という興味はある」


 あ、そっちか。


「左様でございましたか。失礼したのでございます。それでは兄様、スズ様、外に出るのでございます」

「え、俺も?」

「お手を煩わせて申し訳ございません」

「なんでだ?」

「湯船を出していただきたく存じるのでございます」

「はあ?!」


 そんなもの、持っていないし出せるわけもない。

 なにを言っているんだ。


『タイム様に出していただきたいのでございます。可能でございますか?』


 そういうことか。

 タイムのことは極力知られないようにした方がいいからな。

 特に弱点となるところは知られたくない。


『んー。マスター、お風呂の3Dデータを買ってもいい?』

幻燈機ポップアップディスプレイ用のデータか。構わないぞ』

『じゃ、マスターが選んで』

『選ぶ?』

『色々種類があるんだよ』


 そう言って目の前にお風呂の一覧がズラリと並んだ。

 こんなに種類があるのか!

 しかもスクロールバーがあるから表示しきれていない物がまだまだあるってことだよな。


「どうした。洗うのは構わないがここでやるな」

「はい。じゃ外に出よう」


 歩きながら選ぶか。

 でも選べと言われてもな……なんでお風呂なのにタライが表示されているんだ。

 おい、こっちはキッチンじゃないのか。

 明らかにお風呂じゃないだろ。


『タイム、これは……』

『え?! マスターはこういうのが趣味なの?』

『そうじゃなくて! 明らかにお風呂じゃない物が含まれているよな』

『そうだね……でも[湯船]の分類タグが付いてるよ』


 はあ?! ……マジに付いていやがる。

 3Dデータだからそういう遊び心があってもいいということか。

 でも[キッチン]の分類タグも一緒に付いているぞ……まあいい。

 しかし鈴ちゃんが使うんだから無しだろ。

 もっと普通の……


『これは?』

『んー、カーテンが付いてないから丸見えだよ』


 そういうことは先に言え。


『もータイムが選んでくれよ』

『じゃあ……これにしよっか』


 あーテレビでよく見る西洋風のバスタブにカーテンが付いているヤツか。

 あれってどうやって使うんだろう。

 確かお湯を溜めて浸かる習慣なんてないはず。


『いいんじゃないか』


 お風呂は決まった。


「わふっ!」

「フブキー! 元気にしていたか?」

「わうっ!」

「そうかー、でもごめんな。散歩じゃないんだ」

「わう?」

「鈴を洗いに来たんだ。だから大人しくしてて、な」

「わふっ!」


 折角フブキに会えたのに、悲しい。

 また後で来よう。



次回、作者本人も数えたことがありません

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