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携帯は魔法杖より便利です 第5部 歪な共生  作者: 武部恵☆美
第2章 違いを知るためには
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第21話 普通とはなにか

「アニカ、大丈夫か?」

「うう……歩けないよぅ」


 船まで戻ってきたときには大惨事になっていた。

 荷台から降りることも出来ず、立ち上がるのがやっとらしい。

 お尻を突き出し、凄いへっぴり腰だ。


「仕方ないなぁ。鈴、ごめんな」


 鈴ちゃんの手を離して荷台に上がり、アニカに背中を向けて少し屈んだ。


「ほら、乗れよ」

「え、あの……」

「なんだよ。イヤなのか?」

「抱っこしてほしいなって」

「イヤなら歩け」

「ああん、動くのが辛いだけだよぅ」

「背中に乗るまでくらい我慢しろっ」

「うー、分かったよぅ」


 わざとなんだか本当なんだか、〝あっ〟とか〝うっ〟とかうめきながらなんとか背中に乗ってきた。

 ……ん?


「降りろっ!」

「何故でございますかっ」

「あんたに乗っていいと言った覚えはないっ!」


 ったく、図々しいヤツめ。


「わたくしも痛いのでございます」

「そうか。なら降りろ」

「兄様?!」

「自分から降りないなら……投げ捨てるぞ」

「うう……酷いのでございます」

「あの程度でどうにかなるほどヤワじゃないだろ。ったく」

「それはそうなのでございますが……」

「やっぱり平気なんじゃねーかっ!」


 図々しいというか、ふてぶてしいヤツめ。


「はっ、わたくしをお引っかけになられたのでございますかっ!」

「いいからアニカに譲れ! アニカは繊細なんだよ」

「わたくしは繊細ではないと仰られるのでございますかっ」

「分かっているじゃねぇか」

「兄様……」


 がさつとは思わないが、それでも繊細だとはとてもとても……

 お兄様に対する異常性が無くなれば、悪いヤツじゃないんだけどさ。

 でもそれが無くなったらアイデンティティが無くなるし、難しい問題だ。


「よし、今度こそ乗ったな」

「うん……うぅ」


 この重さ、この背中の感触、今度こそアニカで間違いなさそうだ。

 でもちょっと座りが悪いな。

 いよっと。


「痛っ! 揺さぶらないでよぅ」

「あ、悪い。じゃ、動くぞ」

「ゆっくりだよ」

「日が暮れる」

「う、意地悪」


 と言ったものの、なるべく揺らさないように荷台から降りる。

 すると鈴が時子を引っ張りながら駆け寄ってきて俺の手を掴んだ。

 いや、握ったのか。


「えへへっ」

「ありがとう」

「どういたしまして。ふふふっ」


 はぁー、可愛いなぁ。

 この笑顔がずっと続けばいいのに。


「仲が良いんだな」


 おっ、やっと手を繋いでいることを弄られたぞ。


「あ()がとう! あのねあのね、パパとママと鈴はね、いっつも手を繋いで()んだよ。仲良しさんなんだよ」

「父親? 母親? 貴方方は親子なのか?」

「うんっ」


 仮初めだけどな。


「へぇ。自分の親が誰なのか知ってるんだな」

「うゆ? おじさんは知()ないの?」

「おじ……はぁ。そうだな。誰が親なのか誰が子なのか分からないんだ。王を除いてな」


 王様を除いて?!

 というか、子供が居るって事?

 居るけど誰が自分の子か分からないってこと?

 んん??


「ふえ?」

「どういうことですか?」

「どう……と聞かれても、それが普通だからなぁ」

「普通……ですか」

「モナカも自分の親が誰なのか分かるのか?」

「いえ、僕は1年くらい前より前の記憶が無いので……」


 もしかしてこの人も記憶喪失?

 でもそれが普通ってのは変だし……


「トキコは知ってるのか?」

「はい」

「モナカ以外みんな知ってるのか?!」

「はい」

「そうですね」

「当然でございます」

「凄いな。逆になんで自分の親や子が分かるのか聞きたいくらいだ」

「だってそれが普通ですから」

「普通……なのか」


 凄いのか?

 どういうことだ。

 これが王の言う法の違いの一端か?

 幾ら法が違うといっても自分の親が分からないなんてことあるか?

 しかもそれが俺みたいな特殊な状況じゃなくて普通だとか……


「どうして王様だけ知っているんですか?」

「どうしてと聞かれても、あいつ……王は知らないことがないんじゃないかってくらい物知りだからなぁ」


 そういう問題なのか。

 でもいきなりこんな違いがあるなんて、この先思いやられるぞ。

次回、移動させます

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