第197話 どうしてここに
「ナロワモチカムイチイチモヤ、ワモヤ、 ワシウケモレカモエナ」
うおっ! いきなり魔法かよ。
しかもなんか暗くて禍々しいものが杖から放たれたぞ。
これ、黒埜でぶった切れるのか?
「同時押し」
おお! 土壁に氷壁を重ね掛けしたぞ。
そんなことが出来るようになったのか。
「なんと」
硬いな。しっかり防げているぞ。
なら飛び越えて兜割だ!
「はあああああっ!」
「なんだと。ぐぬぅ……」
よし。脳天からとはいかなかったが、肩から腹に掛けて綺麗に入ったぞ。
このまま追撃してトドメだ。
「こしゃくな」
チッ、杖で防がれたか。
しかし硬い杖だな。金属音みたいに響いたぞ。
「まさかこのワシが傷を負うとはな」
「黒埜はよく切れるからな。ありがとう」
「武器に礼を言うとはの。面白いヤツだ」
「そうか? それよりその傷で平然としている方が驚きだぞ」
「なに、大した傷ではない。そうだな。ワシに傷を付けた褒美に面白いものを見せてやろう」
「面白いもの?」
なにを始めようっていうんだ。
そんなことより。
『アニカ、怪我は無いか』
『うん、みんなが守ってくれたから』
『タンク、アニカを頼む』
『任せときな』
これでアニカは大丈夫だろう。
たとえ魔神王がなにかをしたって……は?! 傷が治っていくだと。
しかもそれだけじゃない。
ミイラのようにしわくちゃの年寄りだったのに、そのシワが消えていっている。
体つきも若々しくなって健康そのものに見える。
なにが起こっているんだ。
「ふう。身体への負担が大きいからあまりやりたくはなかったのだが……まぁよい。アニカ殿を手に入れれば問題ない」
「させると思うか」
「ならば守ってみせよ」
「当然だ。行くぞ」
「ふっ、覚悟せよ」
若返った所為か、さっきより素早いぞ。
黒埜と杖が交錯する。
腕は互角か。
「タップタップ……」
「モエウモ チエハンフカ ヴイモヤ、オツエモカモウワモ サンムウワ」
時子の魔法も難なく防いでいやがる。
というか、少し押されてきた?
「ふぁっふぁっ。遅いのう」
なんか、徐々に反応が早く……くっ。
攻め入る隙が……時子も魔法を撃つ暇が無くなっている。
『モナカ、二手に分かれよう』
『しかし』
『大丈夫。さっきみたいにバラバラになるわけじゃないんだから。守ってくれるんでしょ』
『分かった』
『好きに動いて。援護するから』
時子が後ろに飛び退いて二手に分かれる。
「ケレエウハンマモ ワモヤ、ヴイモヤ、ウエハンコカナシウハンマ」
俺を無視して時子を狙った?!
早いっ。
「土壁」
ほっ。きっちり防いでいるな。
『ごめん。反応できなかった』
『ドンマイ。タップ』
「モエウ ナヤ、ロアチモウ ナロヤ、ヤ、モウナ」
相殺ってか、水蒸気爆発したぞ。
爆風が!
「うわっちちち」
「きゃあ」
「時子!」
吹き飛ばされた時子を抱きかかえる。
地面に叩き付けられるのを防いだぞ。
今度は守れた……かな。
「ありがとう」
「気にするな」
「ほう? おぬし、中々面白いことをしよるの」
「は? なにが面白いって」
「今の動きを人間がするとはの。中々楽しませてくれたわ」
? なんの話だ。
今の動き?
吹き飛ばされた時子を抱きかかえただけなんだが。
『マスターも一緒に吹き飛ばされてたってことに気づいてる?』
『へ? そうだっけ』
夢中で分からなかったけど、そうなのか?
つまり吹き飛ばされた人間が同じく吹き飛ばされた人間を抱きかかえて助けた……ってことだよな。
『吹き飛ばされたのをキャンセルしてダッシュした……アプリなら出来そうだな』
『できなくはないけど、使ってないからね』
できるのか。
でも使ってないのかよ。
「さての。次はどんなことを見せてくれるのかの」
「三途の川でも見せてやるさ」
さすが1番強いと言われていただけはある。
なんとか互角に持ち込めているけど、時子の魔法ありきなんだよな。
これじゃ時子を守るというより時子に守られている……だよな。
情けないけど。
『お姉ちゃんも!』
『タイムも?! バッテリー少ないんだけどなー。しょうがない』
少ないか。
確かに3割を切っている。
魔神王相手には少なすぎる。
そういう意味でも手を繋いだまま戦いたかったんだけど……
「タイム・オブ・ターイム。竜騎兵モード、タイムちゃん!」
竜騎兵?!
竜に乗ってくるのか! と思ったらあれはドローン?
トンボ……竜……ドラゴンフライ!
なるほど、竜騎兵ね。
でもいつものドローンより大きいな。
3頭身に合わせた大きさになっているのか。
しかし、竜騎兵という割にはやっていることって空爆なんだよね。
大量の小型爆弾を上空から落として爆撃。
反撃の魔法は爆撃機らしからぬ機動力で華麗に回避。
いつもながら感心しかしないぞ。
三方からの攻撃は魔神王といえどさすがにキツいらしい。
徐々にダメージを重ねていき、片膝をつかせることに成功した。
一気に押し切るぞ。
「これで終わりだ!」
「ぬうっ」
「やらせないわっ!」
「なにっ?!」
魔神と神獣は全員倒したはず。
突然魔神王の前に現れた者を俺は斬り捨てることが出来なかった。
どうしてここにいる?
なんで邪魔をする?
貴方も魔神王を倒すことを望んでいたはずだ。
次回、褒美を与えよう




