第190話 ケータイからスマホへ
そうだよね。
マスターのことは他の人に任せられない。
なによりタイムがしたいんだ。
他の人に任せるのが嫌なんだ。
なーんだ。最初っから答えが出てるじゃない。
「なら時子に力を授けます」
「えっ?」
「マスターと共に歩く力が欲しいんでしょ」
「お姉ちゃんにできるの?」
「方法があるってだけ。やるやらないは任せるよ」
「やる。やるに決まってるでしょ!」
だよね。タイムでもそう答えるもん。
「はいこれ」
「これって、先輩の携帯?」
「これに機種変更するよ」
「機種変更?!」
〝な……キミはなにを言ってるんだ!〟
「そ。携帯は壊れちゃったけど、替えが利かないものじゃない。機種変更すれば時子が使えるようになる」
「でもこれってモナカに必要なんじゃないの」
「今はもう必要無いの。遊ばせておくより時子が使った方がいいんだよ」
〝だからキミが有効利用するんだろ〟
「でも先輩のものなのに勝手に機種変更なんてできるの?」
「そこは大丈夫。さ、手続きをしましょ」
〝聞いてるのか! 機種変更なんかさせたら、キミは受肉できなくなるんだぞ〟
「どうやってやるの?」
「えっと……ネット経由で手続きができるよ。ちょっと待ってね。ページ開くから」
〝あんなに浮かれてた癖に。最後のチャンスなんだぞ〟
「はい。ここに必要事項を書き込んで」
「うん」
〝あの身体が気に入らないのか?〟
「えっと、契約番号って?」
「携帯を契約したとき貰った紙に……あ、今持ってないか。確か写しが……あった。いい?」
「うん」
〝服無しがダメなのか? 対価は必要だけど付けることはできるぞ〟
「住所は?」
「エイルのところでいいでしょ」
「そっか」
〝子供はちゃんと作れるって保証する。2人とも若いから妊娠率もいいぞ〟
「データの復元って?」
「クラウドで保存したデータを携帯に復元するかどうかってこと。メールのデータとかもね。とりあえず[する]を選んでおけばいいよ」
〝メタモルフォーゼも今までどおり使えるぞ〟
「機種選択は?」
〝そうだよ。そこで新しく買えばいいんだ。そうすればクーヤの携帯を使わなくて済むぞ〟
「無しを選択して」
〝なんでだよ!〟
「選んじゃうと届くまで時間が掛かるから」
〝明日には届くよ!〟
「後プラン変更も選択して。今のままだと携帯で使えないから」
〝SIMだって届くのは明日だぞ〟
「あーそっか。えーと、eSIMってない?」
〝あ…………〟
「eSIM? ってなに?」
「確か……ほら、eSIMプランがあるでしょ。それの中から選んで」
〝ていうか聞こえてるんだったら返事をしなさい!〟
「どれ?」
「んー、面倒だからマスターと同じプランでいいか」
「どれ?」
「えっと……これ!」
「後は?」
「今はいいかな。後で追加できるし。後は[送信]押して」
「[送信]っと。[これでいいですか]……んー、大丈夫かな」
「そうだね。大丈夫だよ」
「それじゃ――」
「……ん? [はい]を押せばいいんだよ。……時子? 止まってる? はぁ……また出たか」
〝またじゃない! 聞こえてるんだろ〟
「五月蠅いなぁ」
〝五月蠅くないっ!〟
「こんなの過干渉でしょ」
〝キミが僕との契約を破棄しようとしてるんだから過干渉にはならない〟
「あっそ。ほら、手続き進めるんだから時間を止めないで」
〝時子が[はい]を押したらもう戻れないんだぞ〟
「分かってる」
〝受肉できなくなるんだぞ〟
「分かってる」
〝クーヤの子供が産めなくなるんだぞ〟
「分かってるって言ってるでしょ!」
〝いーや分かってない。分かってたら機種変更なんかさせないだろ〟
「……時子が産めるんだから問題ないよ」
〝自分で産みたいんじゃなかったのか〟
「じゃあどうしろっていうのよ。他に手が無いじゃない」
〝明日でいいだろ〟
「今じゃなきゃダメなの!」
〝どうしてだ?〟
「明日じゃ魔神王に勝てなくなるでしょ」
〝そうなのか?〟
「分かってる癖に」
〝それに関して僕はなにも言えない〟
「役立たず」
〝なんだとー!〟
「それにさ、時子がまた機種変更すれば要らなくなるでしょ。そのときでもいいかなーって」
〝僕は最後のチャンスだって言ったはずだが〟
「できない……の?」
〝一度登録すると登録者以外利用できなくなる。たとえ登録解除してもな。これは未登録だからキミも時子も登録できる〟
「マスターが登録してるんじゃないの?」
〝クーヤが登録してるのは融合した方の携帯だけだ。こっちは登録してない〟
「そう……なんだ」
〝だから考え直しなさい〟
「…………とにかく、早く時を動かして」
〝キミは……はぁ。先に契約だけでもさせておけばよかった。本当にいいんだな〟
「早くして。じゃないと、決心が揺らいじゃう」
〝分かった。後悔するなよ〟
「するわけ……無いじゃない」
これでいい。
タイムはタイムにしかできないことをすればいい。
時子に出来ることをしても意味無いもの。
「――[はい]っと。これで、おねえちゃん?! どうしたの、何処か痛いの?」
「な、なんで?」
「だって、泣いてるじゃない」
「な、泣いてなんかないよ。やだなあ。あー、さっきアクビしたときに出たのかな。は、はははは、は……」
やだ。なんで止まんないの。
後悔なんかしてないのに。
するわけないのに……なんで……うっ。
「[再起動しますか]って出たけど、すればいいの?」
「……ん」
「今度は[データを初期化しますか]って出たけど、初期化していいの?」
「……ん」
「えーと、[バックアップデータをダウンロードします。暫くお待ちください]だって。速度制限されてるから時間掛かるんじゃない?」
「……無制限プランに変えたから大丈夫」
「そうなんだ。あ、ホントだ。もう終わってる」
「……それじゃ、使い方を教えるね」
「ホントに大丈夫?」
「……そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
「でも……」
「……なんのために機種変更したの!」
「でも、直ぐ覚えられるかな」
「……大丈夫。時間ならたっぷりあるわ」
「え?」
「……思考加速を使うからね」
「え? え?」
「……時子も携帯アプリが使えるようになったの」
「ええっ?!」
「じゃあ、行くよ!」
次回、解放します




