第181話 一難去ってまた一難
どうしたらいいのかしら。
タイムちゃんは居なくなっちゃうし、おばさんは臭くて鼻が曲がりそうだし、角の生えた魔獣は走り回ってるし。
冷撃も足止めくらいにしかならないみたい。
あんまり強くするとみんなに被害が出ちゃうし、おばさんを引っ掻こうと思っても魔獣が突っ込んできてやらせてくれないし。
せめて魔獣の足止めができたらよかったのに。
あータイムちゃん、何処行っちゃったのかしら。
「ふん。どうやら結界の心配はもう無いようね。プラマ、走り回らなくていいわ。あのブレスから私を守りなさい」
「んもーぅ」
やった、走り回らなくなったわ。
うーん、でも今度はおばさんに冷撃が届かなくなっちゃたじゃない。
全部あの魔獣が受け止めてるわ。
もう少し魔力を……でもまだそんな細かい調節はできないし……困ったわ。
それにあのおばさん、特に攻撃はしてこないけど更に臭くなってない?
このままだと臭いで倒れそうよ。
「そろそろ頃合いかしら。私もガイスト様のように魔法が使えれば苦労しないのですが……それっ」
おばさんが手を振ったらなんか飛んできた!
うわっ! く、臭い臭い臭い臭い!
ひぃ! ま、またっ!
「わうぅぅぅ!」
な、なんなのあの汁?
凍らせれば防げるけど……ひぃ! 魔獣がまた走り始めたわ。
臭くないのかしら。アタシはこんなにも臭いのに。
うー臭い臭い臭い。
いやっ! 身体に付いちゃったじゃな……う……な、なに。
熱い! 痛い! 臭い! あつっいたっくさっ、あっいっくっ、ああああっ!
ひっまた、避けなくちゃ!
「わぐっ、ぅぅぅぅ」
「っひひひ。なぁにその不細工な踊りは。もう少し華麗に舞ったらどうなの。私たちのように。そらっ」
「んもーっ!」
「ひんっ!」
うう、もう避けるのも……
「フブキ、大丈夫か!」
「タイムちゃん! 戻ってきてくれたのね」
「ああ。安心しな。タンクが守ってやるぜ」
「なんなのいきなりこの大きな盾は!」
「はっはー、貴様にこの大紙の盾が破れるかな」
「うもーぉ!」
「軽い軽い。その程度の体当たりでは歯ごたえ無いぞ! はっはー!」
「くっ、紙の癖に。どういうことなの」
「さぁフブキ! 今こそ真の実力を見せてやれ」
「で、でもそんなことをしたらみんなが……」
「石人形なら安心しな。3人とも中に入ってるから問題ない。マスターや時子は元から平気。だからアニカだけ気をつけるんだ」
「ええっ?! でもそれってどのくらいなのかしら」
「おいおい。まだ自分の力を把握しきってないのかよ。仕方ないな。先生、計算してやんな」
「そうですね。今のフブキさんでしたら目一杯やっても問題ないでしょう」
「そうなのか?」
「かなりお疲れのようですし、本気を出せるほど体力も残って無さそうですので」
「だそうだ」
そうね。確かにこんな身体じゃ全力は無理ね。
なら今出せる全力で行くわ。
「わうぅぅぅぅっ!」
「んもーっ! も゛っ?!」
やったわ! 前足1本だけど凍らせられたわ。
「もっもっんもーっ!!」
「はっはー、バカめ! 凍った足を無理矢理動かすから折れるんだよ。本気のフブキを舐めるな。トドメだ、やっちまえ!」
「わうわうわうっわうぅぅぅっ!」
「んもっもっももんもーっ!!」
「プラマ! そ、そんな……なんなのよ。結界は張られてないはずなのに。しかもたかが氷狼1匹に神獣が負けるなんて」
「バカめ。フブキは氷狼じゃなくて雪狼だ」
「雪狼? 格としては氷狼の方が上よ」
「え、そうなのか?」
「そうですね。種としての格は氷狼の方が上かも知れません」
「はぁー、さすが先生は博識だな」
「いえ、タンクだってデータベースを見れば分かることですよ」
「タンクはタンクだから難しいことなんか分からん」
「はぁ……」
「まーどっちみちこいつは牛だから関係ないだろ。もう動かねーし。っはっはー」
「ごちゃごちゃとうるさいわね。ふん、盾がなによ。だったら防げないようにするだけだ。っふふふふふ。どう、霧なら防げまい。あはははははは」
「っはー! タンクを舐めるな。大紙台風! はぁぁぁっ!」
凄い。
盾を振り回して風を巻き起こしてるのね。
「くっ、こんなことで」
そうだ。この風に冷気を混ぜ込めば……
「あ、なに。か、身体が……ひっ、いやっ! ガイスト様ーっ…………」
「おー、見事な氷像ができたな。見た目はババアだけど。うわっ、盾でつついたら砕けちまったぞ。ま、これで完全に死んだってこった」
「フブキさん、もう冷気を出さなくていいですよ」
「そ、そうなんですけど……上手く抑えられなくて……」
「おいどうした。ババアだけでなく地面も凍り始めたぞ」
「マズいですね。冷気を押さえ込むだけの体力が無くなったのかも知れません。このままだとフブキさんが自滅してしまいます」
「おい、どうするんだよ」
「どうと言われましても。こればっかりは魔力の無いタイムにはどうにもできません」
「おいおいおい。このままだとフブキが死んじまうぞ。そんなことになったらマスターが……」
「廃人になるかも知れません」
「だよなー。おい結界師、なんとかしろ」
「無駄ですよ。あの子が出てくるわけないじゃないですか。それに周りへの被害が防げてもフブキさんは助かりません」
「はぁぁぁぁっ頭痛ぇ。どうすりゃいいんだ」
「フブキさんに頑張ってもらうしかありません。とりあえずタンクは大紙台風で冷気を上空に逃がして下さい」
「くそっ、折角倒せたってのに。フブキ……」
次回、それは良い声ではない




