第17話 魔神様
「すまんな。そういうことだから、私たちの王に会ってくれないか」
あ、今度はちゃんと〝王〟って言った。
「王様にですか?」
いきなり謁見かよ。
そりゃ前回も村長に会ったけどさ。
だって王様だろ。
とはいえ断るわけにもいかない。
いかないが、素直に受けるのもなー。
「得体の知れない僕たちが会ってもいいのでしょうか」
「っはっはっは。問題ねぇよ。王は私たちの中で一番強えぇからな。王が負けるようなら私たちにも勝ち目は無い」
「そういう問題なんですか?」
「そういう問題だ」
強いから王様なのか。
……猿山のボス? とは口が裂けても言えない。
「だから会って直接話をしてくれ。恐らく王も喜ぶ」
「そういうことでしたら……」
「他の方々も御一緒に来ていただけますか」
やっぱりそうなるか。
全員で行くしかないようだ。
『聞いていたと思うけど、そういうことだから出てきてくれ』
『仕方ありませんね。でも気をつけてください。彼らが従えているのは恐らく魔獣かそれに近しい存在です』
『魔獣?! じゃあ彼らは魔人?』
『人間よりは魔人に近いと思いますが、どちらとも言えません』
どちらとも……か。
「分かりました。少しお待ちください」
最初にアニカ、続いてデイビーが、遅れてナームコと鈴が出てきた。
『デイビー、直接会ってみた感じはどうだ』
『そうですね。やはり人間より魔人寄りに感じます。ですが行動が魔人らしくありません』
『そうなのか?』
前回と大差ないと思うんだが。
俺と時子が居るからかな。
俺たちを見ていると食欲が無くなるって言っていたし。
『はい。まるで人間を外敵から守るような行動ですから』
言われてみればそうだ。
逃げ出したのは恐らくエイルたちと同じ人間。
それと入れ替わりにやって来た。
確かに明らかな違いだ。
「これで全員のようだな。付いてきてくれ」
「はい。えっと、船はこのままでいいのですか?」
「今はこのままでいいだろう。後で移動してもらうかもしれん」
「分かりました」
ワンさんたちを先頭に案内されて移動する。
アルバトロスと呼ばれていた女の子は後ろから挟むように付いてくる。
俺たちが逃げないように警戒しているのか?
これも罠なのか?
「ちょっと待っててくれ。馬車を持ってくる」
柵を越えて漸く道に出たと思ったら、ワンさんが馬車を用意してくれた。
馬車というより荷車と言った方がいいんじゃないか。
「悪いな。こんなのしか用意できなくて」
「いえ、十分です」
御者台にワンさんが乗るのかと思ったら、農家……じゃなくて、えっと……牧場の人かな……が乗っている。
なんか、ちょっと脅えている?
突然あんなものが現れてそこから出てきたヤツだからな。
UFO襲来! とか思われても無理はない。
安心してください。キャトりませんから。
アニカとナームコとデイビーが荷台に乗り、俺と時子と鈴ちゃんがフブキにまたがる。
いつもの通りだ。
そしてルイエはアトモス号でお留守番。
連れていこうにも、タイムほど自由じゃないから無理。
「それじゃ行くぞ」
あれ、ワンさんたちは乗らないのか。
「魔神様、本当によろしいのですか」
〝魔神様〟?
「構わん。特例だ。それに短時間なら問題は無い」
〝特例〟?
乗らないことが特例……じゃないよな。
しかも〝短時間〟と指定までした。
なにかあるのかも。
「分かりました。そりゃっ」
手綱で合図をすると、馬が歩き始めた。
それに合わせるようにフブキも歩き出す。
ワンさんたちの移動速度が徐々に上がってくる。
馬も段々早歩きになり、やがて走り出した。
結構速いが、フブキなら余裕だ。
行けども行けども牧場と畑が続くばかり。
地図で確認したが、アパート? の方には向かっていないようだ。
この先の建物といえば、馬小屋とか牛小屋とかくらいか。
そんなところに王様が居るとは思えない。
地図にもお城というか、特別立派そうな建物も見当たらない。
同じような大きさの建物……共同住宅? しか載っていない。
地図が古いのか?
というか、馬の走る速度に遅れることなく平然と先頭を走るワンさんは何者なんだ。
魔神……というのが関係している?
人間じゃなくて魔神っていう種族なのか?
他の2人もそうなのかな。同じように遅れず走っているし。
でも荷車をこんなに飛ばして走っていいのか?
船に乗って付いていった方がよかったんじゃ……
ガタガタ揺れて乗り心地が悪そうだ。
道は森の中へ続いていき、漸く止まって着いたのかと思ったら結界の前に立っている?
まさか……と思ったらそのまさかで結界に人が通れるくらいの穴が開いた。。
つまり外側の結界の中に入るということ。
おかしいな。地図にはなにも載っていないんだけど。
地下なのか?
「悪いがここからは徒歩だ。多分そんなに歩かないと思うから安心してくれ」
多分?
「分かりました」
「うう、お尻が痛いよぅ。モナカくん、さすって」
「自分でやれ」
「えーっ」
「兄様っ」
「あんたも自分でやれ」
「まだなにも言っていないのでございます」
「ならそのまま口をつぐんでいろ」
「兄様っ!!」
「まさかデイビーまで言わないだろうな」
「まさか。確かにかなりのダメージを受けたのは事実ですが、そこまでではありません」
そこまでだったら言っていたのか?!
「っはっはっは。こっちだ」
3人とも全く息を切らせていない。
フルマラソンに出れば世界記録間違い無しだな。
「貴方はそこで待っていなさい」
「わ、分かりました」
こんななにも無いところで待たせておくのか。
御者さんが可哀想だ。
でもなんかホッとしたような顔をしている。
不満とかはないのかな。
次回、いよいよ謁見します




