第166話 本気を出すために
どうしましょう。
4匹纏めて倒せると思ったのに2匹しか倒せなかったわ。
肉弾戦しかないのかしら。
でもあの炎狼……熱そうだわ。
今度は強めに。
「わうぅぅぅぅぅぅっ」
よし、直撃した。
「ふっ、中々涼しいな」
「っははは。私より温いではないか」
ダメだわ、全然効果が無いみたい。
直撃したんじゃなくて避ける必要が無かったってところかしら。
どうしましょう。
「今度はこっちの番だ」
氷の塊と炎の塊の波状攻撃だわ。
ダメ、避け切れないっ。
「いやぁっっ!」
「はっは。中々いい声で鳴くじゃないか」
「この程度か。つまらんな」
「おい氷狼、何処行くつもりだ」
「この程度なら炎狼で十分だろ。私はアルバトロス様と合流して人間を叩く」
「ふっ、まぁいいだろう」
「あっ、待ちなさいっ。貴方の相手はアタシよ。わうぅぅぅぅぅぅぅっ」
「……フン。馬鹿の一つ覚えか」
「貴方の相手は私だ。はあっ!」
きゃっ、なんて熱気なの。
アタシの冷撃が一瞬で消えてしまったわ。
「おや、少し熱しすぎたかな。これじゃすぐ決着が付いちまうな。ふぅ……もっと私を楽しませてくれよ。ほああああああああっ」
マズいわ。火柱で周りを囲まれてしまったわ。
あ……熱い。
身体が……体温が上がって……ううっ
「んー、これじゃ涼しいか。なぁおい。直接暖めてやるぞ。はっ!」
「くっ、わうぅぅぅっ。きゃうっ」
うう、アタシの冷撃じゃあの炎の塊が相殺できない。
熱い。このままじゃ蒸し殺されてしまう。
でも、これ以上は……
「はーっはっはっ。トドメだっ、特大のをお見舞いしてやるっ!」
特大……という割にはあまり大きくない。大きくないけどそれまでのものとは比較にならないほど熱い塊ね。
あんなの食らったら骨まで無くなりそうだわ。
「死ねっ!」
早い。避けられないっ。
「絶っ!」
「なにっ」
なにが起こったの。
炎の塊が目の前でなにかにぶつかって散らばったわ。
「大丈夫ですか」
「タ、タイムちゃん?」
「ひいっ。は、はい。結界師です。えっと……マ、マスターに頼まれて、きま……した」
「ありがとう」
「いやっ。食べないでっ」
「食べないわよ」
「あの、えっと。い、今から……結界を……張り……ます。あ……だから、周りは気にしないで……ください」
「結界?」
「ひゃああああっ。か、噛まないでっ」
「噛まないわよ」
「ううっ。周りの人に……影響が出ないように……出来ます」
「本当?!」
「いやあああああっ。近づかないでっ。絶! ああああっ、ご、ごごご、ごめんなさいっ。痛くなかった……ですか?」
「だ、大丈夫よ」
は、鼻が……ううっ。
「炎が通らねぇだと?! 見えない壁でもあるみたいだ。くそっくそっくそっ」
「じ、じゃあ、結界を……張りますね。極点、界線、絶!」
うっ、急に余計熱くなってきたわよ。
それに周りを囲っていた火柱が壁や天井に沿っているみたいに変な動きをしているわ。
「えっと、もう本気を出して……大丈夫ですよ」
「いいのね」
「ひっ。た、食べていいって意味ではありませんっ。自分は美味しくないですよっ」
「だから食べないわよ」
「なら顔を近づけないでくださいお願いしますお願いしますお願いします……」
アタシってそんなに怖いのかしら。
でも、そう。もう遠慮しなくていいのね。
……本当かしら。
試しにあの邪魔な火柱を消してみましょう。
えっと、軽く息を吸って吹き消してみましょう。
ふっ。
「な、なんだ? なにが起こった」
よし、消えたわ。
回りは?
地面に霜が降りているところと降りていないところがハッキリと分かれているわね。
綺麗に線を引いたみたいだわ。
あれが結界ってヤツなのかしら。
「一体なにをしたーっ!」
さっきより大きくて更に熱い炎の塊を撃ったみたいね。
でも、もう遠慮しなくていいのなら。
「わうっ!」
「ひゃあああああああああああっっっっ!」
「はっ、そんなもんが通用すると思って……な、なに?! 私の炎弾が凍り付いただ……」
はぁー、熱かった。
でもこれで炎狼も凍ったみたいだし、大丈夫よね。
あ、ちょっと張り切りすぎたのかしら。
空気まで一緒に凍ったみたい。
最近はずっと押さえっぱなしだったから加減を失敗しちゃった。
「お、終わりました?」
「ええ、終わったわよ」
「やっっっ」
「近づかないわよ、もう」
「えっと……じゃあ、解除します」
「まだダメよ。この冷気を解き放ったら大変なことになっちゃう。今温度を上げてるから。もう少しこのままでね」
「うう、そんなぁ」
タイムちゃんってこんな子だったかしら。
とにかく苦手だけどここの温度を上げないとここら一帯が凍り付いてしまうわ。
難しいわね。
でもやらないとっ。
次回、禁句再び




