第162話 いざ、決戦へ
「ナユダさん、着きました」
彼女はあれから終始無言でずっと俯いている。返事もない。
彼女の手を取ってブリッジから外へ連れ出す。足取りが重い。
長屋の中まで連れてきたけど、みんなもう仕事に出ているようで誰もいない。
「また後で来ます」
やはり返事はない。
動こうともしない。
完全に心が折れているみたいだ。
リーダーまでもがこれじゃレジスタンスも終わりか?
とにかくアトモス号に戻ろう
「アニカは?」
ドローン越しに見えるアニカの近くには焦げた跡がある。
わざわざあんなところに移動した目的はなんだ。
「タイム、ここってワンさんと戦った場所だよな」
「そうだね」
「ん? 魔神王はなにをしようと……なんだありゃ」
「触手?」
「まさかアニカをっ!」
あ、弾いた。鎌鼬だ。
本当に召喚できるようになったんだな。
いや、時子が近くに居ないから……かも知れない。
だったら時子を置いていくのが一番か?
「モナカ?」
「……なんでもない。行くぞタイム、時子」
「うん」
「ええ」
タラップを駆け上がって中に入る。
ブリッジに戻っている暇は無いな。
『デイビー、ナームコ、こっちに来てくれ。アニカを助けに行くぞ』
『分かりました』
『兄様、わたくしはここから行くのでございます』
『分かった。うわっ、あれは……鳥? いや、翼人か』
『魔神王の神獣みたい』
『相手をしているのはフェニックス?』
『羽が片方しかないよ』
『でもあの翼人を押さえているぞ。精霊だから姿なんて関係ないのかもな』
『お待たせしました』
『よし。ルイエ、移動だ!』
『なんで私なのよ』
『当たり前だろ。いつまで鈴ちゃんにやらせるつもりだ。いい加減船の制御ぐらい覚えてくれ』
『マスター、細かい制御はまだルイエには無理だよ。今はアニカさん優先で』
タイムの言うことにも一理あるか。
「鈴、移動だ。タイム、場所を」
「了解」
「分かった」
と同時にドローンの視界にアトモス号が映った。
と同時に魔神が何者かに攻撃を……つて、これアトモス号の機銃か?
『ナームコ、アニカに当たったらどうするんだ! 止めろっ』
『申し訳ございません。つい』
まったく。
でもこれで魔神たちの気はこっちに向けられたか。
ハッチを開いて外を見ると魔神達がこっちを見ていた。
「くっ、不意打ちか」
「大丈夫か」
「ああ、なんとか」
ひとりも倒せていない。
対人機銃だからかな。それなりに強いということか。
「アニカ! 今助けるからな」
魔神王は精霊達が相手をしている。
時子がこの距離でも還らないってことは、本当に大丈夫みたいだ。
「よし、みんな行くぞ」
「うん」
「ええ」
「わうっ」
「仕方ありませんね」
〝存じたのでございます〟
〝了解〟
……ん? なんか聞こえちゃいけない返事が聞こえたような気がする。
気のせい……だよな。
アトモス号が着陸したと同時にタラップを駆け下りて戦闘準備を整える。
標的は魔神とその神獣。
アニカ、本当に魔神王は任せてもいいんだよな。
おお? 対人機銃の一部が分離して2つに分かれたぞ。
あれが守君と攻君か。
本当にあれが石人形?
……どう見てもナームコ本人にしか見えん。
でもよく見ると本人と比べて片方は小さくてもう片方は大きい。
「おお、見事な石人形ですね。これほどまで人に似ている石人形は中々見られません。不気味の谷を越えています」
やっぱりここの人には見分けが出来るんだな。
俺もタイムも時子も見分けられない。
どこからどう見てもでっかいナームコとちっこいナームコだ。
「ふぉっふぉっふぉっ、随分と早いではないか。討伐の支度とやらが出来たのかの」
「いや、ノンビリしていたらアニカが危ないだろうからな。ちょっと早めに来てやったぞ。しかしどうしたことかな。丁重に扱うんじゃなかったのか」
「ふむ。ワシ自ら丁重に扱っておるところじゃ」
「よく言うわ。あたしの主をそのいやらしい触手で如何わしいことをしようとしてたんじゃないの!」
「なんと。精霊とはそのような想像をする者だったのか。言い伝えとは随分と違うの」
「ふえ?! そ、そんなわけないでしょっ。あたしが主を触手で辱める想像なんてするわけが……な、ないじゃない」
「ほう。ではどのような想像をしたのかの?」
「え、えっと……そ、それは……」
「鎌鼬よ、おぬしの妄想を披露するのは勝手じゃが、アニカ様を巻き込むでない」
「違うわよっ」
まさか精霊がそんな妄想をするとは想わなかった。
精霊にもちゃんと性欲ってあるんだ。
「鎌鼬、程々にな」
「違うって言ってるでしょっ!」
茶番をやる余裕があるなら大丈夫だろう。
四精霊で上手く対処しているみたいだし。
なら俺達はアニカが邪魔されないように露払いをしますか。
次回、先制攻撃はどっちかな




