第160話 絶望への転落
「ウソ……でしょ」
「嘘じゃない。これが結界の外の現実だ」
「そんな……」
安全なところでヌクヌクと育っていたナユダさんには、この光景はショックだろうな。
なにも無い灰色の大地。それが延々と続いているんだから。
機械のことや水槽に入った鈴ちゃんについて質問攻めになるかと危惧していたんだけど、そんな暇もなくモニターに映し出されている外の景色に釘付けになっていた。
「これじゃ私たちは飼育されなきゃ生きていけないじゃない」
「そんなこと無い。俺たちは飼育されなくても生きている」
「それはモナカたちが強いからだよ。私には無理。魔物や魔神なんかと戦えないわ」
「そういうのは専門家に任せればいい。ナユダさんが戦う必要は無いから、安心して」
「ううん。私はそれに見合う仕事なんてできないもの。釣り合いが取れないわ」
「ここでは取れていたの?」
「食料になっていたんだから十分でしょ」
ナユダさん自身は食料になっていないと思うんだけど。
「モナカのところは同じ人間が魔物や魔神たちを駆除してるって言ってたじゃない。うう……」
『彼女の言う通りかも知れません』
『どういう意味だ』
『僕たちの世界では魔法道具が使えなければ生きていくことは難しいでしょう』
『魔力を通すだけで使えるんだろ』
『それは正しいとも間違っているとも言えます。僕たちは小さい頃から、それこそ生まれてくる前から慣れ親しんでいます。ですから簡単に扱えるのです。そうでない者には苦労することでしょう。それに彼らは魔力が乏しい。まともに使える方は一握りも居ないかも知れません。そうなると仕事が無いも同然になるでしょう』
『今更そんなこと後出しするなよ。分かっていたことだろ。まさか見捨てようなんて言い出すんじゃないだろうな』
『まさか。ですが彼女と同じ考えに陥る方は多そうです。その対策も考えねばならないでしょう』
『よし、それはお前たちに任せる。今はアニカを――』
「帰して」
「え?」
「私が生きていけるのはあそこだけ。外なんてまっぴらだわ」
「そんなことないって。戻ってどうするの」
「魔神様たちに飼育してもらうわ」
「飼育って……最後は食べられてしまうんだぞ。それでもいいのか!」
「野垂れ死ぬよりはマシよ。外がこんな世界だったのなら知らなければよかった。魔神様が居なくなったら生きてなんかいけない」
「ナユダさん……」
相当心が弱ってしまったみたいだ。
「分かりました。貴方を魔神に引き渡しましょう」
「おい、そんなことをしたら」
「彼女が望んだことです。そんなことより一旦戻って戦力を揃えましょう」
「ダメだ。そんな暇は無い」
「貴方たちだけで対処するおつもりですか」
「お前も戦うんだ」
「僕は非戦闘員です」
「でも炎の鞭を振るってエイルと戦ってましたよね」
「エイルと?!」
「うん。鈴ちゃんを引き渡さないって言ったら力ずくで連れ去ろうとしたんだよ。だから非戦闘員っていうのは嘘」
「これはこれは、僕としたことが。あの場にタイム様もおられたのですね」
ナームコも居たんじゃないのか。その時点で隠し通せないだろ。
「なら話が早い。俺と時子で魔神王を。ナームコとデイビーで魔神たちを。フブキは神獣たちだ」
「かなり分が悪くありませんか」
「タイムがある程度攻撃を防いでくれる。十分やれるはずだ。負担が大きいけど頼んだぞ」
「任せて!」
〝兄様、わたくしは守君と攻君で出るのでございます〟
ナームコにそっくりな石人形のことかな。
「分かった。頼りにしているぞ」
〝はうっ! 兄様に――〟
「そういうの今いいから」
〝兄様のいけず〟
「黙れ愚義妹」
『モナカくん、これから進化の儀が始まるんだけど……なんかちょっと雰囲気が違うよ』
『進化の儀?!』
丁重にもてなすって、そういうことか。
『うん。魔神王様が直々にするんだって。でも食事じゃないみたいなんだ。精霊たちが警戒してる』
『タイム、どうなっているんだ?』
『えっとね、魔神王とその神獣がアニカさんを連れて移動してる』
『移動……』
モニターにその風景が映し出された。
周りでは人々が畑仕事をしている。
今突っ込んでいくと周りの人たちに被害が出ちまう。
それも計算のうちか?
魔神たちも2人の後に付いて歩いている。
ちょっとした大名行列だ。
でもひれ伏す人は何処にも居ない。
黙々と仕事をし続けている。
何処へ向かっているんだろう。
次回、強襲です




