第157話 仮の話
「お主たちのところにも魔物は出るのであろう」
「はい」
「確か魔神が複数で当たっておると申しておったな」
「左様で御座います」
そういえばデイビーは魔神王と話し合ってたんだっけ。
そもそも交渉事はデイビーの仕事だし、任せておくか。
「全滅した場合はどうしておるのかの」
「僕の知る限り、全滅したことはありません」
「なんと」
「撤退も重要で御座いますから」
「なるほどのぉ。ふぅむ……」
……だからこの会話になんの意味があるんだ。
今することなのか?
「ところでの。1つ気になることがあるのだ」
「それはなんでしょう」
「うむ、実はなにかを燃やしたと思われる跡があっての。誰がなにを燃やしたのか分からぬのだ。心当たりは無いかのぉ」
「御座いません」
「左様か……火を使う魔物とも考えたのだがの、ワシはそのような魔物に遭うたことが無い。おぬしたちはどうかの」
「過去に数例記録が御座います」
「ほう、遭うたことがあると申すか」
「僕たちが遭遇したことは御座いません」
「左様か……して、なにかを燃やしていた者だが、少々不思議なものでの。残留魔力を調べたのだが、ワシらの中に該当する者が居らぬ」
残留魔力!
それを調べられるのか。
「魔物のモノではありませんか」
「いや、明らかに人間の物であった。可能性は2つ。ワシが把握しておらぬ民の物。もう一つは……お主たちの物。どうかの」
うっ、目つきが変わった。
確信を持っているかのようだ。
いや、持っているんだろう。
「僕たちがやった……そう仰るので御座いますね」
「他に心当たりが無くての。ワシは見当違いなことを言うておるだろうか」
「その魔力を僕たちから感じられるということで御座いますか」
「それが不思議なことに感じられぬのだ」
燃やしたのは時子の携帯魔法だ。
時子から感じられないのは当然として、携帯からも感じられないのか。
今使っていないからか?
「感じられないのであれば、僕たちではないのでしょう」
「我が民を疑うより外部の者を疑うのは道理であろう」
「では仮に僕たちだとして、一体なにを燃やしたというので御座いましょう」
「そうさの。焼けた跡は4カ所。ワンとホーリンとイチとニーエ……かの。確かお主たちのところでは魔物は燃やすのが決まりであったの」
「はい。その場合、ワン様と神獣様は分かりますが、ニーエ様も燃やしたのは何故でしょう」
「んむ? 何故ワンと神獣は分かるのだ」
「魔物も神気を持っているからで御座います」
「なんだと」
「おや、魔神王とも在ろうお方がご存じなかったので御座いますか」
「………………人にとって害となる神気。確かに魔物も持っておる。むしろ魔神より色濃くのぉ」
お? 大人しく後ろに控えていた魔神たちがザワついたぞ。
魔神王は知っていたけどそれを隠していたってことか。
魔神王が右手の義手を横にビシッと構えると、一瞬で静かになった。
そしてゆっくりと地に突き立てた。
「ふむ、見苦しいところを見せてしまったの」
「いえ、僕も余計なことを申してしまいました」
「よい。つまり魔物と魔神は人に害なす存在故燃やす……ということかの」
「はい」
「ほう。となると、ニーエを燃やしたのは神気に当てられたから……ということであろう」
「さすが魔神王様。ご明察です」
だからお前はその拍手癖を直せ!
沈黙の中、ゆっくりと叩く掌から発せられる音だけが辺りを支配する。
それを魔神王が左手を軽く挙げて解放し、再び静寂が支配する世界になった。
魔神王の表情や態度に変化は見られない。
強いて言うならダボさんが滅茶苦茶睨んできているくらいだろう。
デイビーは気づいているんだろうけど相変わらずのポーカーフェイスでスルーしている。
次回、やっぱり死人に口なし




