第156話 様々な可能性
朝ご飯を食べ終えても時子の髪は太ももの辺りから変わらず少しも元に戻っていない。
やっぱりトレイシーさんのご飯じゃないとダメなのかな。
ナユダさんが食器を片付け終わったから外に出るとドライバーさんが待っていた。
「こちらです」
案内されるまま少し移動すると魔神王だけでなく魔神達も、えーと……6人か。
アトモス号に2人居るのを合わせると全部で9人。勢揃いってことか。
こりゃ確定っぽい?
フブキも連れてこられてはいるけど特に拘束されていない。よかった。
でも神獣が睨みを効かせているな。
ん? 彼は……人間?
1人人間が居るぞ。
俺たちが来るのを待っていたのか。
えっと、彼の隣に並べばいいのかな。
「おはようございます」
とりあえずみんなで挨拶をしておく。
「うむ、おはよう」
う……返事をしてくれたのは魔神王だけか。
他の魔神たちは後ろから様子を伺っている感じだ。
「ふむ、スズ殿とナームコ殿は如何したかの」
「船でやることがありましたので、昨日の夜から泊まり込みをしています」
「左様か。さて、昨日より行方の知れなくなっておるワンとニーエだが、死んでおることが分かった。ゴガーシャよ、ここは暫くドライバーが管理をするでの。皆に伝えるのだ」
「はいっ!」
この長屋の代表だったのかな。
ゴガーシャと呼ばれた人は長屋へと戻っていった。
ワンさんが死んだというのに随分と落ち着いていたような……
思っていたより特別なことではないのか?
ウッドさんのときもこんな感じだったのかな。
で、俺たちだけが残っている……と。
ははっ、どうしたもんかね。
尋問でも始まるのか?
「ナユダよ、ニーエのことは知っておるな」
「はい」
「ふむ。残念であるが、ニーエはもう戻っては来ぬ。どうやら魔物に襲われたようでの。ワンが助けに入ったようだが手遅れであったようだ。そのワンも魔物と相打ちになったのだ」
どういうことだ?
何故俺たちにはちょっと詳しいことを話すんだ。
作戦どおり誤魔化せた……という感じには思えない。
なんともいえない沈黙が続く。
俺たちの出方を伺っているのか。
誰も動かない。
しかし静寂とは破られるためにあるようだ。
「ふむ、おぬし達はどう思うかの」
「どう……と仰いますと?」
「いやなに。あのようなところへ何故ニーエが出向いたのか分からなくての。同じ人間ならば分かるかと思うての」
「僕はここの人間ではないのでちょっと……」
「ではナユダよ、どう思うかの」
「その……私はニーエではないので分かりません」
「ふぉっふぉっ、そうかそうか」
うっ……再び沈黙が場を支配したぞ。
ズバッと聞くでもなく、疑いの眼差しを向けられるでもなく、ただただ優しく微笑んで佇んでいるだけだ。
後ろの魔神達も特に動く様子は無い。
全て魔神王に任せているということか。
ナームコからなんの連絡も無いからあっちも動きが無いということだろう。
「ふむ、ワンを食ろうた魔物が行方知れずでの。なにか知っておらぬか」
「知りません」
「左様か。ふぅむ、困ったのぉ」
なにこの質問しては沈黙、質問しては沈黙の繰り返し。
空気が重い。
バレているならサクッと来てくれ。
その方がやりやすい。
『バレている……よな』
『かも知れません』
『いやいや、完全にバレていてこっちの出方を見ているようにしか見えないぞ』
『かも知れません』
『なら他にどんな可能性があるっていうんだよ』
『本当に困っているだけかも知れません』
『んなわけないだろ!』
『でしょうね』
『どっちなんだよっ』
『決めつけはよくありません。可能性がある限りどちらの場合も考えなければいけません。そして他の可能性もです』
『他の可能性……』
他にどんな可能性があるっていうんだ。
次回、仮の話




