第146話 双龍の炎術師
「パパ!」
「兄様っ!」
「わふっ!」
「鈴! フブキ!」
アトモス号の中に入るとそこには鈴ちゃんとフブキが居た。
長屋に居ると思っていたのにこっちに戻ってきていたのか。
ん? 眼帯?
「鈴、怪我でもしたのか? おいナームコ! あんたが付いていながらこれはどういうことだ!」
「いえ、それは――」
「言い訳をするな! ナース、すぐ診てやってくれ」
「あーその眼帯ね。マスター、とても残念なことなんだけど……」
「残念って。まさか……失明?」
「そういう残念じゃ無いから安心して」
「じゃあなんだっていうんだ」
「魔王よ、我が眷属が眼に宿りし魔力が暴れた故、我が封印したのだ。感謝せよ」
「…………は?」
魔力? 封印?
「お前はなにを言っているんだ?」
「うっ……くっ」
「鈴?! どうした。痛むのか? ナース!」
「あー、健康そのものよ」
「ああああああああああっ」
「そんなわけ無いだろ。こんなに痛がっているのに」
「そうね。確かに〝痛い〟かも知れないわね」
「かも知れないわねって、どうしたんだよ。もっとちゃんと診てくれよ」
「馬鹿な。俺様が強力な封印を施したというのに……これほどまで強大だったとはな。くくくくくく、ふはははははははは! よかろう。ならば多重封印術を施してやろう。ナースよ、眼帯を寄越せ」
「……ふぅ。はいはい」
「お、おい」
なにが起こっているんだ。
封印? てなんだ。
うっ、なんだあの眼帯は!
もの凄い力の奔流があふれ出しているぞ。
魔力が感じられない俺ですら目視できるとか、どれだけだよ。
くっ、眩しくて直視できない。
「今楽にしてやる。この俺様にしか施すことの出来ぬ御業でな」
なんだこの魔法陣はっ。
眼帯に力が集約していく?
それに連れてどんどん禍々しくなっていっていないか。
「おい、そんなものをどうしようってんだ」
「ふっ、決まっておろう。重ね掛けて封印を強化するのだ」
「なっ。こんなもの鈴の目に当てるっていうのか!」
「これ以上暴れたら世界が崩壊するのが分からぬのか。この愚魔王め」
「ふざけるなっ」
「待ってマスター」
「ナース! なんでだよ」
「鈴ちゃんはアトモス号を動かせるだけの魔力を持っているのよ。そんな強大な魔力をこんな小さな子供が本気で抑えられると思っているの? ナームコさんが鈴ちゃんを側に置くのは暴走を押さえて世界の崩壊を防ぐためなのよ」
ナームコが?!
じゃあ鈴ちゃんがナームコに懐いているのってそれを知っているからなのか。
「それを俺様が代行しているのだよ、愚魔王。くっ、さすがに調整が厳しいな。俺様でなければとっくに魔力障害が起きているだろうよ」
「嘘だろ」
「っふふふふ。そう、嘘よ。暴走なんてしていないわよ」
「…………はあ?」
「でもあれは必要な儀式なの。そうよね、ナームコさん」
「タイム様はご存じなのでございますか?」
「なにを指してご存じなのかは分からないけれど、鈴ちゃんを見ていれば分かるわ。だって魔力が見えなくともタイムはナースなんですから」
「……そうでございました」
「どういう意味だ」
「なんでもございません。強いて言うならば、スズ様はオママゴトを真剣に遊んでいるのでございます」
「オママゴト?! 怪我はしていないってことか」
「左様でございます」
「いや、だとしてもあんな禍々しい眼帯なんて付けたら」
「忘れたの。あれはただの演出よ」
「演出……ああ、あれか」
見かけだけで実際にはなにもないっていう。
「それにやっているのは厨二病炎術師なのよ。双子の魔法少女じゃないの」
「あーそういえばそうだったな。てことはまさか……」
「そう。鈴ちゃんは今厨二病を発病しているわ」
「なん……だと」
「でも安心して。重傷じゃないの。あくまでオママゴトなのよ」
「それは安心できるのか?」
「多分ね」
多分かよ。
「タイム様、ネタばらしをしては面白みに欠けるのでございます」
「ふふっ、ごめんなさいね」
あー眼帯の上に眼帯なんかクロスするように付けて本当に二重にしちゃったよ。
あれが多重封印術って?
オママゴト……ねぇ。
「はぁ、はぁ。ありがとう……ございます。楽になりました」
「ふっ、当然だ。俺様の手に掛かればこの程度のこと、ドラゴンを捻るようなものだ」
それはもの凄く苦労しそうなことだな。
「ふぁぁぁぁ、ドラゴン!」
凄く目を輝かせているな。
これ以上深入りさせてはいけない。
でも元気なようでよかった。
「元気みたいだな」
「うんっ」
「兄様っ、ナームコも元気なのでございます」
「わふっ」
「そっか。フブキも元気だったか」
「わたくしも元気なのでございます」
「パパは?」
「ああ、パパも元気だぞ」
「兄様……」
「……ホント?」
「本当だぞ! ほら」
「んー。パパ、お耳貸して」
「ん、なんだい?」
「ふふっ。鈴の元気を分けてあげます。いい子いい子」
へ?! なんで頭撫でられているんだ?
「鈴? パパは元気だぞ」
「じゃあもっと元気にしてあげます。いい子いい子」
ええー、どゆこと。
「じゃあパパも鈴をもーっと元気にしちゃうぞー。ぎゅーっ」
「きゃはははっ。ぎゅーっ。ね、ね、ママも、ママも!」
「んー? ふふっ、ぎゅーっ」
珍しいな。鈴が時子に甘えるなんて。
たまには2人で鈴を抱き締めるのもいいかも知れない。
「違うの! 鈴じゃなくてパパ!」
「えっ。えっと……ぎ、ぎゅー……」
なんで俺?!
何故か鈴ちゃんと時子が俺に抱き付いている……ってナース、お前もか。
と思ったらナームコもどさくさに紛れて便乗してきやがった。
フブキまで!
一体なにが起こっているんだ?
「なんなのよ一体」
「ナユダさんも!」
鈴ちゃん?!
まあでもナユダさんがそんなこと。
「ええー、仕方ないなぁ」
嘘だろ。
仕事でもないのにナユダさんが抱き付いてきた……だと。
雨でも降るんじゃないか。
それより後々同等のなにかを要求されるんじゃないか。
次回、見学開始




