第143話 なにを信じればいいのか
「ほら、早く早く!」
さっきまで頭を抱えていた人とは思えないくらい明るいな。
切替が早すぎないか?
らしいっちゃらしいんだけど……
早くといってもそこまで離れているわけじゃない。
ここからでも煙が立ち上っているのがよく見える。
その周りに皆がいるのも見える。
遮蔽するようなものが無いだけだけどさ。
走って行くナユダさんを見ながら歩いて行く。
「ダイスさんが船のことをダボさんに話したって本当かな」
「どういうことですか」
そっか、聞いていなかったのか。
「ダイスさんが進化の儀に参加していたんだ。それをナユダさんに話したらダイスさんとダボさんが密会していたって言うんだ。そのときに得になることを話したんじゃないか。その見返りに参加できたんじゃないかって。だから船のことかなって思って」
「なるほど。それでダイス様が乗船したことを知られてしまったということで御座いますね」
「う、うん」
「そうですね。ナユダ様の仰ることを信じるのでしたらそれが妥当でしょう」
「でもダイスさんが参加したがっていたとは思えないんだ」
「ですが、ナユダ様のようにはっきり否定していなかったと存じます」
「船で連れ出してくれって言っていたんだから同じだろ」
「それは勝手な解釈というものです」
「そうだけど……それ以上にダイスさんが俺たちのことを売るようなことをしたとは思えないんだ」
「ではナユダ様が嘘を仰っているということで御座いましょうか」
「勘違いしているだけじゃないか」
「ですが、密会しているところを見られたので御座いましょう。勘違いとするには些か無理があると存じます」
それもそうか。
「船以外のことかも知れないだろ」
「船以外で進化の儀に参加できるほどのこととはなんで御座いましょう」
「う……」
そう言われると反論できない。
でも話して有益になるようなことはなにも知らないはず。
船についてなにも話していないし、なにより泊まっただけだし、怪しい動きをすればタイムが絶対気づくし、そもそも見ただけで理解できる人がここに居るとは思えない。
……ダメだ。幾ら考えても分からない。
「時子、ありがとう」
「……はぁ。モナカ、遅いよ」
なんでため息から入った。
「悪い。ニーエさんは?」
「燃え尽きたよ! ほら、早く船に行こう!」
ナユダさん……
とりあえず無視して残り火に手を合わせて黙祷をするか。
「なにしてるの、はーやーくー!」
「ナユダ、船に行くとはなんだ?」
「モナカがね、船に乗せてくれるんだって」
そんなこと言ってないぞ。
「船?」
「ここに来るときに乗ってきたというヤツか」
「そ」
「乗せてくれるって、彼らの結界に連れていってくれるのか!」
行かないよ。
「おお!」
「ここから出られるのね」
「やったぞ!」
「でも待って。ここに居ないみんなは?」
「乗せてくれるんじゃない?」
だから乗せないからね。
「ああ、これで魔神に脅える生活は終わりなのね」
脅えてたの?!
そんな風には見えなかったけど。
レジスタンスのみんなはってことか。
しかし黙祷をしている場合じゃないぞ。
「勘違いしているみたいですけど、船を見学するだけですよ」
「ええっ?!」
「ナユダ、どういうことだ」
「ちょっとモナカ、ケチくさいこと言わないでよ」
「ケチではありませんっ。あんまりごねると見学もなしにしますよ」
「みんなごめんっ! 私の勘違いだった」
ナユダさんが謝っただと?!
まさかそこまでするとは……
絶対文句の1つも言うかと思ったのに。
「勘違いかよ」
「私たちも見学できるのか?」
「魔神に見つかったら厄介だよ」
「それもそうか」
「残念ね」
意外だな。
ナユダさんがダメ出しするなんて。
しかも割と的を射ている。
雨でも降るんだろうか。
次回、人口推移




