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第141話 お腹空いた

「ふん。ああっ、私の全能たる魔神(まがみ)王様っ。これから見せる彼の醜い有様をお許しください」


 なにそれ。

 ワンさんは応援するようなことを言ってくれたのに、このおばさんは失礼なこと言うなー。


「ほら、とっとと構えなさい」


 口も顔と一緒で悪いなぁ。

 気にしても仕方ないし、とにかくスプーンですくって構えよっと。

 …………あれ? 号令が掛からないなぁ。

 隣をチラッと見ると、ダイスさんがまだ構えてないみたい。


(ふぉっふぉっ、まるで初日のアニカ様のようじゃのぉ)


 ええええ?!

 ボクってあんな感じだったの?

 それをモナカくんに見られてたんだ……

 うう、恥ずかしいよぉ。


「貴方、受ける気がないのならやっぱり他の人に――」

「受けますっ! 受けさせてくださいっ」

「だったらさっさとしなさいっ」


(ほう。あの男、覚悟を決めたようじゃの。顔つきが変わりよった)


 ホントだ。

 やっぱり他の人には譲りたくないんだ。


(そうかの。ワシにはそうは見えんのじゃが……ふむ)

(ちょっと! (あるじ)に刃向かう気?)

(ほっほ。いつも刃向こうっておるのはおぬしの方ではなかったかのぉ)

(なっ……そ、そんなわけないでしょっ)

(そうかのぉ。いつも嫌よとか忙しいとか言っておった気がするのじゃが……ああそうかそうか。あれはただのフリじゃったんじゃな)

(な、な、な、な…………そんなわけないでしょ! フリなんかじゃないわよっ。ホンットに迷惑だったんだからっ)


 そうだったのかい? ごめんよ。


(え?! あ、いや……そ、そんなこと……あの……別に、その……な、無い……わよ)


 あはは、いいんだよ気を遣わなくて。

 これからは気をつけるよ。ごめんね。


(あ……う……ううっ)

(ふあっふあっふあっふあっ。少し意地悪が過ぎたようじゃな。アニカ様、こやつは虐められて喜ぶタイプじゃ。嫌よと()うとっても裏では喜んでおったのじゃ。じゃからこれからも頼るがよい)

(はあ?! なに言ってんのよっ。そんなわけないでしょ!)

(ふあっふあっふあっ)

(笑ってんじゃないわよっ)


「よし、さっさと食べなさいっ」


 あっと。ダイスさん、構えたんだ。

 それじゃあ食べ――


「イタダキマスっ!」


 うわっ。なになに?

 ダイスさんが凄く大きな声で〝いただきます〟って言ったと思ったら勢いよく食べ始めたぞ。

 そんなにお腹が空いてたんだ。

 みんなは一口食べただけで死んじゃったりのたうち回ったりしてたのに凄いな。

 おばさんも驚いた顔してる。

 もしかしてダイスさんは魔神(まがみ)様になれる適性があったのかな。

 あ、ボクも食べなきゃ。

 昨日2人分食べたっていっても全然足りなかったからね。

 お腹ペコペコだよ。


「う……ぐ……あ……あああああああっ」


 えっ?!

 ダイスさんが急に叫び出しちゃった。

 ど、どうしたの?


(あやつに適性があるわけなかろう。仮にあったとしても致死量を遙かに超えた毒素を盛られておったのじゃ。耐えられるわけもなかろうて)


 どういうことだい?


(ただ単に殺したかっただけじゃろうて。それが分かっておったから他の者に譲りたくなかったのじゃろう)


 ええっ?! じゃあ死ぬのが分かってて食べたっていうの?


(じゃろうな)


「ニーエ……すま……ない……」


 ニーエ……さん?

 お友達かな。


「ふん。普通はこうなるわよね。で? ……なに、まだ食べてないの?」

「すみません。ビックリしちゃったもんですから」

「まさか今のを見て食べたくない……とか言わないわよね」

「いえ、いただきます」


 でも冷静に考えたら食べたら死んじゃった人を隣で見てたのに同じ物を食べようとしてるんだよね。

 普通なら絶対食べないよね。

 でもこれ、薄味だけど普通に美味しいんだよね。

 問題は量。今日も少ないなぁ。


(量は少ないが、毒素は特盛りじゃの)


 そうなのかい?

 大丈夫なの?


(ふぉっふぉっ、問題ない)


 そっか。確かに変な味もしないもんね。


「ごちそうさまでした」

「……元気そうね」

「あはは、お陰様で」


 本当はお腹が空いてぐっすり寝られないんだけど。


「今日はここまでよ。明日に備えて身体を休めておきなさい。特別なものを用意してあげるわ」

「わ、わぁ……それは楽しみだなぁー」

「ふんっ」


 特別なものか……なんだろうね。


(ろくでもないものに決まっておろう)


 あはははは。

 はぁ……お腹空いた。

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