第139話 わんこよ永遠(とわ)に
わんこを斬ってしまった感触がいまだに残っている。
オオネズミやイノシシとは違う感触。
魔獣のときと似ていたけど少し違う。
少し柔らかくて、けれど芯があった。
そこを通り過ぎたら抵抗を感じることも無く、スッと斬れた。
そんなわんこも既に燃え尽きて灰しか残っていない。
本当にこれでよかったんだろうか。
「マスターが手を出さなくてもいずれは倒されていたのよ。あのまま彼らが攻撃していれば疲れ果て、攻撃を受け、もっと苦しんで死んだの。でもマスターは一瞬で、斬られたことすら気づかないくらいの勢いで苦しみから解放させたの。恨まれてなんかいないわ」
「そう……かな」
「そうよ」
「ううっ、わんこ……」
「マスター、わんこじゃなくてホーリンよ」
「ホーリン……ああ、そうだ。そうだった。ホーリン、すまない。安らかに眠ってくれ」
「シャキッとしなさい。浮かばれるものも浮かばれないわよ」
「そうか。そうだな。俺がしっかりしないと……あれ、時子は?」
「ニーエさんを火葬しに行ったわよ」
「他のみんなも?」
「ナユダさん以外、みんな行ったわ」
「ナユダさん?」
「なに? もー、私頭痛いんだけど」
「えっ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよっ。目的は果たせたけど死体が残ってない状況がどうなるか分からないの! あーもー」
「すみません」
「謝って済む問題じゃないんだからね。燃やすとか……あり得ないわ」
「魔物なら死体を飲み込んで栄養にするから元々残らないのでは?」
「そんなこと知らないわよ」
「ワンさんも魔物を消滅させてましたよね」
「だから知らないって言ってるでしょ」
「目の前で見てましたよね」
「はあ?! ワンがなにしてるかなんて見てるわけないでしょ」
……彼女はなにを言っているんだ。
本当にこれでリーダーっていえるのか?
それともこれで成り立ってしまう程度の集まりということ?
それならこの散々な結果も納得できる。
もう、放っておこう。
「ナース、みんなのところに行くぞ」
「もういいの?」
「ホーリンも灰に還ったし、ここにいても仕方ない」
「彼女は?」
「放って――」
『兄様、進化の儀が終わったのでございます』
『ナームコか。こっちも終わったところだ。アニカは元気か?』
『元気だよ。ねぇモナカくん、ニーエさんって知ってる?』
『知っているけど、なんでアニカが知っているんだ?』
『うん、それなんだけど………………』
『………………なんだって?!』
次回、進化の儀です




