第13話 地図の値段
アトモス号の中に入り、ナームコを銃座まで連れて行く。
この状態のヤツを銃座に座らせるのはあれだが、他に座席は無いからなー。
などと思いながら初めて銃座まで来たのだが……本当にこれは銃座か?
超豪華な椅子にしか見えないぞ。
……あ、これって確か勇者の祠のときに座っていた椅子だろ。
この椅子……お気に入りなのか。
これなら気兼ねなく座らせられる。よかったよかった。
ナームコをそっと椅子に腰掛けさせ、銃座を後にする。
〝離れたくない〟と駄々をこねるかと思ったけど、固まったまま動かなかった。
意識が飛んでいるんじゃないだろうな。
機銃を使うことはないだろうからいいけどさ。
ブリッジに降りて自分の席に着く。
いつもの席はデイビーに座らせている。
つまり今の俺の席は、エイルが座っていた席だ。
結局ここに座ることになっちまったな。
「デイビー、座標をルイエに教えてやれ」
「了解」
〝私?!〟
「もう航路算出くらい出来てもらわないと困る。いつまで鈴やタイムにやらせるつもりだ?」
〝それはそうだけど〟
「エイルが戻ってきたときになにも成長していませんって言うのか?」
〝わ、分かったわよ〟
「なに、どうせ一直線だ。難しいことなんてない。方角だけ間違えなきゃいいんだよ」
〝分かってるわよっ。えっと……多分こっち〟
「多分?」
〝こっちよっ。いちいち細かいのよ〟
「鈴、出発だ」
「了解。浮上します」
中央省の人たちに見守られながらアトモス号が浮上していく。
来たとき同様結界に穴を開け、通り抜けて穴を閉じる。
そんなものを目の当たりにすれば、驚くのも無理もない。
あの生意気な技術者も腰を抜かして倒れていやがる。
鈴ちゃんやナームコをバカにした報いだ。
後は外との結界までひとっ飛び。
奴らからは一瞬で見えなくなっただろうけど、それはこっちも同じ。
今どんな顔をしているのか見られないのがちょっと残念。
代わりにデイビーさんが良い反応を見せてくれる。
なにしろ出発したと思ったら。
「間もなく目的地です」
と鈴ちゃんが言ったわけだ。
状況を把握するのに少し時間が掛かったようだ。
「鈴、ゆっくりでいいぞ」
「了解」
「えっ、ちょっと待ってください。え……」
「聞いていただろ。目的地はもう目の前だ」
「嘘を吐かないでください。たった今出発したばかりではありませんか」
「そうだな」
「ターナー工房から中央省まで1時間掛かってるんですよ。それも驚きですが、まだ1分も経っていません」
「だから言っただろ。物凄くゆっくり行くって」
「……そうで御座いました。しかし! 結界はどうしたのでしょうか。まさか」
「そんなこと鈴がするわけないだろ。穴を開けて通った後に塞いでいるよ。そうだよね」
「はい。そのとおりです」
「それを信じろというので御座いますか」
「あーもう面倒くさいヤツだな。鈴、これからは結界の前で一時停止だ」
「了解」
「だとしても」
まだあるのか。
「それだけの速度となると、衝撃波も物凄いことになるでしょう。街に壊滅的な損傷を与えることに――」
「ならねーよ。そんな衝撃波は発生していない。そうだよね、鈴」
「はい、そのとおりです」
「だから安心しろ」
「それを信じろというのですか」
「同じことを言わせるな。仮にそうなっていたなら乗っていたお前も同罪だ」
というのはちょっと無理があるかな。
でもその無理を押し通すっ。
「…………」
「とにかく、目的地はあそこだ。モニターに映っているだろ。時子、距離は?」
「88.08キロ」
「そんな……確かに結界のようなものが見えます。ですが、あまり大きくないようです。いえ、あまりにも小さい。都市1つ分も無いように見えます」
「そうなのか?」
世界地図で確かめておくか。
「タイム、地図を出してくれ」
「えっと……買うよ」
「いいぞ」
「買う?」
「ああ。地図のデータを買えば見られるようになるんだ」
前回みたいに地下空間があったら、そっちは無理だけどな。
「それがモナカ様の力ですか」
「だとよかったんだが、スマホの力だよ」
携帯端末を持っている転生者なら誰でも使える。
アプリストアからアプリをインストールすれば、誰でも使える。
俺だけの特別な力ではない。
全て借り物の力だ。
っと、そうだ。
「なあ、この地図データを買う金って経費で落ちるよな」
「そうですね。落とせると思います」
「デイビーが一緒に居る限り、つまりは中央省が絡む限り全部経費ってことでいいんだよな」
「依頼に関わるものでしたらそうなります。ですが私物や客観的に見て関わらないようなものは落ちません」
「そうなのか?」
「当たり前です」
そうなのか……
アプリ入れ放題と思ったんだけどな。
値段に比例する……とは言わないけど、安いアプリはそれなりの効果しか得られないし、いいなと思っても月額課金だったり、買い切りでもメジャーアップデートで旧版が使えなくなったり……
貧乏人には辛い。
でもハードは謎の資金力でアップグレードできてきたから、そろそろソフト面に力を注いでもいい頃かな。
前回のアプデでタイムの身長は大きくならなかったし、問題は無いはずだ。
しかし見た目だけじゃなくて身長まで時子と全く同じだとは思わなかった。
双子はただの設定……なんだよな。
「買ったよ。モニターに出すね」
映し出された地図によると、結界は外と内の二重構造になっているらしい。
内側には大きめの建物が点在しているが、外側は人の住めそうな建物は見当たらない。
となると外側には畑があるのかと思えば、そんなことはなさそうだ。
森と空き地くらいしか無いらしい。
森の恵みってヤツ?
でも内側にも森は少ないけどあるし、それ以上に畑が大きい。
後家畜も居るらしいのか、牧場っぽい場所もあるぞ。
結界を二重構造にすることで毒素の侵入を無くしているのかな。
「これが結界の中の様子ですか」
「そうだな」
「素晴らしい。こんなにも細かく……この星全体も可能でしょうか」
「多分……お金さえ払えば」
「幾らでしょう」
「タイム、幾らだ?」
「えっとね……うわっ。デイビーさん、こんな額だけど」
「これは……」
どれどれ……うわっ、日本の国家予算が小学生のお小遣いに見える額だ。
いくらなんでも無理だろう。
「では、このポイントの地図だけですと、どうでしょう」
「そうだねー」
デニスさんが立ち寄った場所限定かな。
それなら大した額にはならないんじゃないか。
そんなに数は多くないし。
『タイム』
『記録済み』
『さすが』
これでデイビーが居なくても場所が分かるぞ。
次からはお払い箱にしよう。
「広さは?」
「広さ……ですか」
「うん。その場に居るなら自動的に切り取ってくれるけど、そうじゃない場合は広さを指定しないとダメみたい。で、その広さで指数的に金額が跳ね上がるよ。そうなるとかなり割高になるみたい」
「そうですか……あまり現実的ではなさそうですね」
「そうだねー。ここも全体が入るように広さ指定で買うと……5倍くらい掛かるみたい」
偉いぼったくっていないか。
「なるほど。それでも安いとは思いますが……」
安いのかっ!
「支払えるほどの予算は無さそうです。今は諦めましょう」
予算があれば買うのか。
確かに直接出向くより安全だし、事前に分かっていれば行動しやすい。
そう考えると5倍でも安いのかも知れない。
次回、結界の中へ入ります




