第138話 火葬
それなら問題はわんこだ。
苦しませないためとはいえ……俺は……この手に……
わんこはもう動いていない。
少し不機嫌そうな顔のまま、牙をむき出しにしたまま、時子のあげた水を避けたその場所で息絶えていた。
「モナカ、燃やすよ」
「あ、ああ。頼む」
わんこが燃えている。
ゴウッと燃え上がった炎はユラユラと揺れ、踊っているかのようだ。
結局一度も遊んであげられなかったな。
いつもワンさんの隣に居たのに撫でてやることすら出来なかった。
それなのに俺が唯一やったことといえば、その命を絶つことだけ。
それでも狂犬病の苦しい症状から解放させてあげたと思えば、思えば……くっ。
「モナカっ! なにやってるの」
ナユダさんか。
「なにやっているって、ナユダさんこそなにやっていたんだよ。なにもしないでボーっとしていただけじゃないか」
「なんで燃やしてるのって聞いてるのっ。あー2匹とも燃やしちゃって」
「火葬するのはごく普通だよ」
「カソウ? そうやって適当なこと言って誤魔化さないで。もー……仕方ないわ。ワンは? ワンの死体は何処?」
「無いわ」
「無いって……貴方が殺したんでしょ?」
「火葬したから無いのよ」
「またカソウ?! なんなのカソウって。いい加減にして」
「火葬っていうのは……なんて説明したらいいのかしら」
「そうね。土地不足解消とか伝染病の予防なんて現実的なこともあるけど、火葬……つまり遺体を燃やすことでその身体に宿っている悪しきモノを浄化して綺麗な身体にして成仏させるって事よ。この場合だと毒素……神気を浄化したってところかしら」
「そういうことを聞いてるんじゃないの! もー、こんなの魔物の仕業に見せられないじゃない」
ああ、そういうことか。
「ナユダさん、俺たちは二次災害を防ぐためにいつも燃やして灰にしているんだ。確認不足だったね」
「モナカっ。貴方ね」
「なにもしなかったナユダさん達にどうこう言われたくないよ」
「してなくないわ。戦ったじゃない」
「戦った? 遊んでいたの間違いじゃないの?」
「遊んでなんかないわよ。神獣を相手に必死で戦ったわ」
「何一つ仕事を全う出来なくて、全て俺たちに押し付けたのに?」
「ちょっとモナカ、言い過ぎよ」
「言い過ぎなもんか。時子だって相手にしなくていいワンさんの相手をさせられたじゃないか」
「それは……」
「手伝うって約束なんだから問題ないでしょ」
「なら神獣はレジスタンスの方で片付けるって約束は何処に行ったんですか」
「そ、それは……」
「結局神獣も魔神も俺たちが倒すことになったじゃないですか。お前たちが不甲斐ないから……実力もないくせに、出来もしないことをやろうとした結果がこれでしょ。ニーエさんを犠牲にして……時子にワンさんを殺させて……そして俺は……この手で……う、うう、うわあああああああっ」
「マスター!」
「ごめんなさい。今マスターはちょっと情緒不安定なの。だからあまり気にしないで。でも、ナユダさんたちが仕事を全うしなかったのは事実。それが原因なんですからグダグダ言うのは止めて下さらないかしら」
「う……」
「時子、ニーエさんの遺体を火葬してあげて。タイムが付いていってね。マスターのことはナースに任せて」
「ニーエまで燃やすつもり?」
「マスターが言ったでしょ。私たちに助力を願うってことはこういうことなの。それにニーエさんの遺体だけあっても不自然でしょ」
「その不自然な状況を作り上げたのはモナカたちでしょ」
「そうさせたのは貴方たちがなにもしなかったからよ」
「してたわよっ」
「結果が全て。過程なんて些細な問題よ。私たちのやり方に不満があるなら結果を見せなさい。時子、行って」
「う、うん」
「待ってくれ。ニーエは本当に死んだのか?」
「ええ」
「そうか。最期を見守ってもいいか?」
「時子の邪魔をしないなら構わないわ」
「分かった」
「私も」
「私も行こう」
「ちょ、ちょっと。みんなどうしたの? 見守るってなに」
「ナユダ、貴方は行かないのか?」
「行かないわよ。今までだって死んだ者は放置してきたでしょ」
「ああ。だがカソウはあの本にも出てきただろう。実際を見ておきたいのだ」
「あっそ」
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