第137話 あくまで医療行為だから
「時子! 怪我は? 大丈夫か?」
「え? あ、うん。大丈夫だけど……って、な、なに?」
顔は……大丈夫そうだ。
首筋は……うん、手は……足は……太ももは……
「ちょっ、何処見てるのよっ、エッチ!」
「エッチじゃないっ。かすり傷1つでも付いていたらどうするんだ!」
「ふえっ?!」
「もっとよく見せてみろ」
「う、うん……」
これは……一見無傷に見えるけど、よぉく見るとうっすら筋のようなものが見える。
しかも1つや2つじゃない。
顔にも首筋にも手の甲にも。
「きゃっ!」
長袖を捲くって見てみたけど、腕には無さそうだ。
「モ、モナカ?!」
スカートだから足はあらわになっている。
だからだろう。
太ももやふくらはぎにもある。
「な、なんなのよっ!」
「動くな!」
「動くなって……う……」
靴下を下ろして見たけど、ここには無い。
服で隠れているところは大丈夫みたいだ。
「ナース、これはどうなんだ?」
「え?! あーどうかしら。その内消えると思うけど触診してみて――」
「触診だな!」
「マスター?!」
「モナカ?! 何処触って…………」
ひとつひとつ丁寧に触れてみる。
特に腫れているとか凹んでいるとか段差になっているとかは無い。
軽く押してみてもシコリのようなものも感じられない。
全身くまなく調べたけど、変わったところはなさそうだ。
「マスター、触った感想はどう?」
「ああ、柔らかくて弾力があって凄くスベスベしていて綺麗なもんだ。おかしな感じは一つも感じなかったから大丈夫だと思う」
「そうね、ナースも同じ意見よ。時子、よかったわね」
「……はぁ。よかったって言えるのかしら」
「どうして?」
「それを言わせるつもり?」
「それもそうね。ごめんなさい」
「ん? どうかしたのか?」
「どうもしないわ。もぅ………………バカ」
「本当はナースが触診する予定だったんだけど、マスターが代わりに全身くまなく触診してくれたから感覚を共有して確認したわ。問題は無かったから安心して」
「え?! ナースが?」
それもそうか。
考えてみれば俺が触診したって分かるわけないよな。
なのに時子の身体を触りまく……って?
「あっ、その……えっと……あ……」
無我夢中だったから気づかなかったけど、もしかして……もしかしなくても……あああああああっ。
「今更恥ずかしがるなっ。私まで恥ずかしくなるでしょ!」
「う……その、ごめん」
「謝るなっ。あーもーうー」
「マスター、そういうときは〝ごちそうさま〟って言うのよ」
「お姉ちゃんっ!」
「えっと……ごちそうさ――」
「真に受けてどうするのよっバカッ! うー」
「ええっ?! て言われても……え、えーと……も、問題ないって、傷なんだろ。感染……していないのか?」
「ああ、そっちね。最初から問題ないわよ」
「……最初から?」
「ふふっ、こっちの話。その傷は殆ど自分で付けたヤツだからわんこは関係ないの。それも明日には消えてると思うわ。どう、安心した?」
「そうか……痕にはならないのか。よかった」
多少引っかかることはあるが、問題ないのなら良しとしよう。




