第136話 不治の病
「そうだ。猪は片付いたけどわんこはどうなったんだ?」
「どうにもなってないよ。矢が2本刺さっただけかな」
「当たったのかっ!」
「ダメージになってないけどね」
「ほっ。それはよかった」
「マスター……」
「よくないでしょ!」
「へ?! なにが?」
「次は犬をやるわよ」
「わんこはいいだろっ」
「よくないわよ。はぁ……足手纏いだからそこで見てて」
「あ、おい!」
携帯片手にわんこへ向かっていってしまった。
「マスター、いいの?」
「相手はわんこだぞ」
「魔獣だよ」
「う……」
「時子1人にやらせるの?」
「そうだよ。引き留めなきゃ」
「違うでしょ! はぁ……あのねマスター、あのわんこは狂犬病の予防接種を受けてないの。もし時子が怪我をして狂犬病になったらどうするの?」
「なに?! なら尚更保護して摂取させなきゃ!」
「もう手遅れなの。あの顔見たでしょ。もう発病してるよ」
「嘘……だろ。だって……ちょっと機嫌が悪いだけだろ」
「ホントだよ。ほら、時子が[水槍]を撃ってるけど嫌がって避けてるでしょ。恐水症を引き起こしてる証拠だよ」
……確かに避けている。
「知ってると思うけど、狂犬病の致死率はほぼ100%。あのわんこはもう助からないんだよ」
助からない……そんなっ。
「なんとかならないのかっ」
「マスターならともかく、わんこや時子はタイムには無理だよ」
「そんな……」
「だから安楽死させるのも優しさなんじゃないかな」
「そ、それは……」
わんこがもう助からない?
苦しませるより安楽死を?
それも優しさ……なのか。
「わんこは助からないけど、時子はまだ助かるんだよ」
まずい。
毒素は効かなくても狂犬病はかかる……よな。
「時子……時子っ!」
「……まったく。世話が掛かるんだから……」
万が一にも時子がかすり傷一つでも負ったら……
黒埜を構え、一気にわんこへと一足飛びで斬りかかっていく。
「時子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「モナカ?!」
「はあああああああああああああああああああっ」
苦しませないためにもこの一撃で……くっ。
ごめん。
振り下ろした黒埜を、わんこは避けることなく、身動き一つせず、その身に受けてくれた。
……もしかして自分が助からないのを分かっていたのかな。
気のせいかもしれないけど、斬られる瞬間笑っていたような気がした。
わんこは鳴き声一つあげることなく、その場で崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……うっ、うううっ」
「モナカっ!」
時子が駆け寄ってくる。
そうだ、時子は無事なのか?
次回、緊急事態だから仕方がない




