第127話 人間の力
「なら貴方を倒して証明にしましょう」
「出来るかな」
「あら、さっきの攻防を忘れたの?」
「ちょっと油断をしただけだ」
「戦いの最中に油断? 随分と余裕ね。命取りにならなければいいけど」
「貴方こそ今の一撃で倒せなかったことを後悔するがいい」
「倒せなかったんじゃなくて倒さなかったのよ」
「っははははは。覚悟!」
また爪の攻撃?
フェイントをかけるでもなく素直だわ。
また受け止めてーー
「きゃっ!」
さっきより強い!
小太刀を弾かれちゃった。
一旦下がって体制を……追い掛けてくる!
なら[火矢]で迎撃よ。
嘘、掴んで折られた。
このくらいじゃ無理か。
でも足止めはできたみたいね。
なら今度は矢より早い[石弾]よ。
「ぐあっ」
あれ?!
弾というより砲弾くらい大きくない?
しかも早い。
避ける暇もなく当たって吹き飛んだのはいいけど、まさか終わったりしてないわよね。
「ぐっ、くそ。なんだ今のは」
よかった。まだ生きてる。
人間と違って魔人は生命力が強いな。
「どう? 人間の力は」
結構なダメージだとは思うけど、思ったよりピンピンしてる。
「ふん。なるほど。本当に手加減は不要ということか」
「優しいのね。まだ手加減してくれてたんだ」
「貴重な外の人間だからな。殺したら私があいつに殺されかねん」
「殺しに掛かってくる相手を生け捕りにしようとしてたの?」
「そうだ」
それが本当ならもう少し強い魔法を使わないとダメージを与えられそうにないわ。
戦略を変えましょう。
「ならこういうのはどう?」
私を中心にワンさんも入るように[火壁]を円状に展開すれば。
「さぁ逃げ場は無いわ。一気に行くわよ」
「それは貴方も同じこと! くらえっ」
両手をクロスした?
「時子、避けなさいっ」
「え? っきゃあ!」
風が通り抜けた?
「真空波よ」
「真空波?!」
太ももがパックリ開いてる……
なのに血は殆ど出てないわ。
包丁で指を切った時と違ってあんまり痛くない?
「応急手当をしておくわ」
「ありがとう、ナース」
「ふっ、続けていくぞ!」
ワンさんが爪を振るう度に真空波が襲い掛かってくる。
避けきれないっ。
小太刀で斬り付けても全てを防ぐことが出来ないわ。
一旦火壁の外に出て……え?! 真空波が火壁を突き抜けてくる!
なら[氷壁]で防いで、よし。
あ、やっと添付魔法のダウンロードが終わったみたい。
じゃ、ちょっと大きいの行くよ。
火壁の中を指定して[氷嵐]だ。
「がぁぁっ!」
ダウンロードに時間が掛かっただけのことはあるわ。
結構な威力ね。
これで終わるといいんだけど……
中に入って確認しなきゃ。
……この中に入るの?
「中に入ってはダメよ」
「え?」
「その氷壁、触れるでしょ」
「……ホントだ」
冷たくないけど、ちゃんと触れる。
「そういう塊は当たるのよ」
「つまり中に入ると……」
「ミンチになるんじゃないかしら」
「ひっ」
「だから気をつけてね」
「う、うん」
ミンチ……想像しただけで背中がゾクッとしたわ。
でも不思議な感覚。
火壁はなにも感じず通り抜けられたのにね。
まあでもこのまま放っておけば……
「時子、調子に乗ってると魔力が無くなるわよ」
「魔力? 私とモナカは魔力無しなんでしょ」
「マスターはそうだけど、時子は持ってるわよ。その長い髪にね」
「えっ、髪に?」
「大魔法を使い続ければどんどん髪が短くなるわよ」
「嘘?!」
そんな注意書き、何処にも無かったのにぃ。
こんな大魔法……膝までいっちゃった?
それとも腰まで……
「ほら、もう1ミリも短くなってしまったわ」
「……え?」
「あんまり長く使ってると、マスターの充電が出来なくなるわよ」
「……え? あ、うん」
1ミリ……か。
前髪なら大騒ぎだわ。
でも1ミリ?
短くなってるようには見えないけど。
でも魔力?
モナカを充電して短くなったことはあるけど……魔力?
よく分かんないけど、えっと……じゃあ携帯を閉じて一旦消さなきゃ。
あっ、補助魔法も一緒に消えちゃった。
んー、個別に消す方法はないのかな。
「ぐ、おおおお……はぁ、はぁ」
嘘っ、まだ生きてるの?!
でも身体はもうボロボロね。
左腕は肘から下が無くなってる。
とりあえず補助魔法は掛け直さなきゃ。
まだ気は抜けないもの。
次回、決着




