第126話 正直な嘘つき
「ワンさん!」
「まさか……貴方方もグルだったとはな。最初から仕組まれてたのか」
仕組まれた?
なんのことかしら。
「あなたの相手は私よ」
「貴方が一人で私を相手にする……と? 外の人間だからといって手加減は出来ないぞ。貴方方は人間どもの相手を。殺しても構わない」
「ワンッ!」
「ブモッ!」
「覚悟!」
「出でよ、小野小太刀!」
「なに?!」
爪を振りかざして襲ってきたワンさんを小太刀で受け止めた。
うん、やっぱり補助魔法の効果が高くなってる。
じゃなきゃ右腕1本じゃ受け止めきれないよね。
次は火力と……安全性か。
お姉ちゃん、信じてるからね。
女は度胸よ!
「まずは小手調べ、行くわよ」
「なに?」
うう、やっぱり左手で携帯操作するのは慣れないな。
右手の倍以上掛かってる。
でも短縮魔法くらい余裕で出来るようにならないと。
「うおっ!」
「きゃっ!」
……うわぁ。本当になんともないや。
こんな至近距離で[火球]をワンさんに当てたのに、全然熱くない。
爆風も殆ど感じないわ。
でもワンさんにはしっかり効果が出てるみたい。
爆風で吹き飛んだし、当てた脇腹辺りに火傷の痕がはっきりとあるわ。
凄い。
「くっ」
それじゃ次ね。
「ワンさんは元人間だったんでしょ」
「あ? それがどうした」
「本当に人間を食べているの?」
「…………なんの話だ」
誤魔化すつもり?
「進化の儀で亡くなった人はどうしたの?」
「…………話すと思うのか?」
「よかった。あなたが正直な人で」
「なに?」
「私に話せないようなことをしたってことでしょ」
「…………埋めた」
見え透いた嘘ね。
そんなことできるわけないでしょ。
「何処に埋めたの」
「…………何処でもいいだろ」
「お墓も無いの?」
「…………オハカ?」
「そう。お墓を知らないのね」
「それがどうした」
「どうして埋めたなんて嘘を吐くの?」
「嘘なんか吐いてない」
「なら何処に埋めたのよ」
「…………休耕中の畑に埋めた」
「畑に? 進化の儀を受けた人を?」
「たとえ人間であろうと無駄には出来ない。畑の栄養になってもらう」
「ふふっ、ワンさんは嘘が下手ね。そんなところに進化の儀を受けた人を埋めたら畑が死んでしまうわ」
「…………」
「反論は出来ないみたいね。どうして元人間なのに人を食べられるの?」
「…………はぁ。最初は抵抗した。しかし無駄だった。魔神って奴は人間を食わないと理性を失ってしまう。理性を保つためにも必要なことだ」
「それはあなたの意志が弱いからじゃないの?」
「貴方も経験してみれば分かる」
「ふふっ、それは無理な相談ね」
「それにこうやって魔物が襲ってくる。魔神という存在は必須だ。存続させるためにも犠牲は必要なのだ」
「そうかしら。私たちのところには魔神なんて居ないもの」
「…………なに?」
「代わりに魔人っていうのが居るんだけど、それは魔物と同じで駆除対象なの。神獣も魔獣といって駆除対象よ」
「駆除対象……魔神は必要の無い存在なのか」
「そうよ」
「そうか……そうなのか……っふふ、ふははははは、わーっははははははははあーいや、済まない。中々面白い冗談を言うものでな」
「冗談?」
「魔神が居ない? 駆除対象? 馬鹿を言え。たかが人間如きに魔物が倒せるはずないだろ」
この狭い世界がこの世の全てなのね。
でもいきなり自分が駆除対象だ……なんて言われても、簡単に受け入れられないよね。
私だって自分が家畜だ……なんて言われても受け入れられないわ。
全力で否定してやるんだから。
次回、調子に乗った代償が……




