第125話 倒すべき相手VS倒すべき相手
「ニーエ?! 貴方はここでなにをしてるんだ」
やっとワンさんが到着した。
早く助けてやってくれ。
「いや、今はそれどころではない。ホーリン、イチ、行くぞ」
犬と猪の神獣がワンさんの号令に会わせて魔物を取り囲んだ。
やっぱりあの猪はドライバーさんが連れていた神獣だ。
ワンさんの爪がギラリと伸びる。
それが合図なのか猪が魔物に体当たりを食らわせる。
怯んだところを犬が噛み千切る。
反撃の触手はワンさんが爪で刈り取っていく。
おお、きっちり連携が取れているぞ。
魔物は伸び上がると太めの触手をワンさん目掛けて勢いよく伸ばした。
ワンさんはサッと避けたが、地面に当たるとそこから四方八方に触手を伸ばしワンさんを取り囲んだ。
慌てることなく爪で一閃。切り裂かれた触手が地面にボトボトと落ちていく。
陸に打ち上げられた魚みたいに跳ねているぞ。
なに?! それを神獣たちが食っている?
というか、ワンさんまで拾って食ったぞ。
魚みたいに跳ねてはいるけど、それは魚じゃないぞ!
そんなことよりニーエさんを助けてくれよ。
魔物の反撃を躱し、猪が突進し、犬が噛み付き、ワンさんが切り裂き、そして食べる。
食べるまでがワンセットなのか。
とても食べきれる量には見えないんだけど。
再び魔物が高く伸びるとニーエさんを掲げた。
なにをするのかと思ったらワンさん目掛けて投げやがった。
「なにっ?!」
ワンさんはニーエさんを受け止めることが精一杯で、続けて襲い掛かってきた触手の攻撃も受けてしまった。
ニーエさんを攻撃から守るため、全てを自身の身体で受け止めた感じだ。
本当に魔神が人間を守っているんだな。
不思議な光景だ。
しかし魔物ほどではないとはいえ魔神そのものも人間にとっては毒だ。
ワンさんは一旦距離を取り、ニーエさんを横たわらせた。
ニーエさんが解放されたことで神獣たちが遠慮なく魔物を攻撃できるようになったらしい。
それまで以上に激しく攻撃をしている。
ワンさんも戻ろうとしたが、片膝をついて苦しんでいる。
やはり触手のダメージが大きいようだ。
これも作戦成功への一歩……と見るべきなのか。
いやいや、倒すべき相手の心配をしてどうする。
魔物もいよいよ本気を出し始めたのか、神獣たちも押され始めてきた。
倒せるのか?
念話で応援を呼べばいいのにどうしてそうしないんだろう。
少なくともドライバーさんはこっちに向かってきている様子は無い。
ワンさんは立ち上がると魔物へと襲い掛かっていった。
最初と比べると連携はバラバラ。
反撃も防ぎきれていない。
動きも単調。
デイビーの言うとおり、どう見てもデニスさんより弱い。
じゃあ俺より弱いかっていうと、微妙だな。
多分負けはしないと思うけど……
それでも少しずつ魔物を削り取っていく。
千切っては食べ、千切っては食べを繰り返す。
食べると傷が少し回復するみたいだけど、受けるダメージもそれなりに大きそうだ。
最初の大きさと比べて半分にまで小さくなった。
もう食べることはせずとにかく叩き潰して踏み潰して滅している。
あれでも倒せるのか。
魔物は燃やして滅するのが一番らしいけど。
斬撃武器より打撃武器の方がいいのか?
「みんな、準備はいい?」
いよいよ行くのか。
みんなが無言で頷いている。
「認識はされてないけど、見えなくなるわけじゃないから気をつけてね」
「俺はニーエさんを保護しに行くよ」
「可哀想だけどもう手遅れよ。二次被害を防ぐためにも放っておきましょう」
「知っているだろ。俺に毒は効かない」
「……分かった。任せるわ」
「時子、気をつけろよ」
「モナカもね」
ワンさんたちの戦闘もいよいよ結果が見えてきた。
魔物はもう子犬くらいの大きさしかない。
それでも果敢に触手を伸ばして襲い掛かっていく。
それも無駄な抵抗。
最後は八つ裂きにされて神獣の胃袋に納められた。
「ふぅ。なんとかなったか。しかしどうなってんだ」
「今よ!」
「うおおおおおー!」
「やぁーっ」
一斉に矢が放たれた!
……うん、分かってたけどね。
真っ直ぐ飛んでいく矢が無い。
あれじゃ那須夜一でも的を射るのは不可能だろ。
でも矢を撃つ早さだけは早いぞ。
10本とか直ぐ撃ち終わるだろ。
タイムの矢が無ければどうしていたのかな。
数打ちゃ当たるとはいうが、それでもなかなか当たらない。
ランダム性が高いから予測がし辛くて当たる……くらいか。
「なに?! 貴方方は……くっ、そういうことか」
〝そういうこと〟?
なにが〝そういうこと〟なんだ。
次回、時子VSワン




