第119話 思っていても口には出せない
『タイム様』
『分かってるよ。これと似たような弓と矢しか渡さなければいいんでしょ』
『ご協力、ありがとうございます』
『でもそれ、逆に難しいかも』
『そうなのか?』
『んー、一直線に飛ばすだけの方が楽だからね。形状や環境に弓の性能を計算して飛ばすのは面倒だよ』
『なるほど。確かにそれは面倒くさそうだな』
「ナユダさん、はいこれ」
「わっ。なにこの量の矢は!」
「矢筒にぎっしり入ってるじゃないか」
「何処から出したの?」
「おお、出来もかなりいいぞ」
そのレベルでいいんだ。
子供のオモチャの方が真っ直ぐ飛びそうな出来なのに。
「ついでに槍も補充しとく?」
「槍まであるの!」
「あるよー。はいどうぞ」
「うおっ!」
うわ……
見せてもらった槍に負けず劣らずなんとも言い難い形状をしている。
「すごい……」
それでも凄いのか。
「何処にこんなにも持っていたの?」
「ふふっ。足りなければ言ってね。渡してあげるから」
「まだあるのか?!」
「うん。この子たちに言ってね」
「きゃあ!」
「なんだなんだ」
「小さい……人間……なの?」
「タイムだよ」
おお!
久しぶりにゾロゾロと出てきたな。
1人に1人だから7人。
そういうことか。
で、俺と時子にデイビーで4人。
……あれ?
『確か8人までじゃなかったっけ』
『前回のアップグレードで12人までいけるうになったよ』
『なるほど。となると残りの1人は鈴ちゃん?』
『鈴ちゃんとナームコさんだね。アニカさんは精霊に丸投げかな』
『デイビーから1人削れないのか?』
『そうなると膜が張れなくなっちゃうねー』
『張れなくてもいいだろ』
『あはは。もう少し慣れさせてからじゃないと無理かなー』
『そっか』
慣れさせるってことは、膜の中の魔素量を減らしたり毒素濃度を上げたりしているのか。
まだ数日だし、慣れないよな。
本人は気づいているのか?
「マスターから離れすぎると支援できなくなるから気をつけてね」
「マスター?」
「俺のことです」
「ふーん」
といってもそこまで離れることはないだろう。
念のためってヤツだ。
「武器も揃ったことだし、少し早めに行って仕度しよう」
「そうだな」
「神獣2匹……か」
「なによ。怖じ気付いたの?」
「そんなわけあるかっ」
「なら行くわよ」
「「「おーっ!」」」
移動はどうするんだろうと思ったが、今回は俺たちが入ってきた扉から全員が出ていった。
特に制限とかがあるわけじゃないのか。
「こんなんで戦えるのかって思ってるんでしょ」
「えっ、いや、そんなことは……」
「いいよ、正直に言って。私がそう思ってるんだから」
リーダーがそんな風に思っていて大丈夫なのか。
「……はい」
「そうよねー。あなたの武器はとても綺麗だった。でも私たちの武器は凄く見窄らしい」
「いえ。俺たちが用意した武器も負けず劣らず不格好ですから」
「ふふっ。そういえばそうね。カタナ……だっけ? あれだけ美しい武器が作れるのになんであんなにも不細工なのかな。凄く疑問」
「っはははは」
「私たちに気をつかってそういうのを選んだんでしょ」
バレているし。
「黒埜はタイムが時間を掛けて丁寧に打ったものだからですよ」
「タイムが?! 打つってなに?」
「俺の国ではカタナを造ることを打つっていうんです」
「クニ? ふーん。あ、この話はみんなには内緒だよ」
「っはは」
内緒か。
リーダー自身が戦えないって思ってるなんて言えるはずも無いからな。
「だからさ、遠慮しないでもっと綺麗なものにしてよ」
あー、なんか変にしおらしいなって思ったけど、結局いつも通りか。
「すみません。ああいう専門外の武器は作るのも苦手でして……」
タイムの株を下げるようなことを言ってしまった。
とはいえ、過干渉奉行が居るからな。
「刀でしたらお貸ししますよ」
「要らないよっ。もーブツブツ……」
本当はきちんとした弓も矢も用意出来る。
でも、問題はそこじゃない。
次回、無理無茶無策?




