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第11話 技術者の実力

「遅いですよ」


 姿が見えた途端、叱りつけている。

 メンツを潰された……とか思っているのかな。


「予定は2日後だと聞いていたんでな。急に〝今から取りに行きます〟と言われて〝はい分かりました〟ってなるわけねぇだろっ! ったく。他にも予定があったってのによぉ」


 デイビーに文句を言える立場の人なのか?

 それとも俺の想像よりデイビーの役職って低い?


「文句は予言者に言ってください」

「はぁー、まさか外れるなんてな」


 予言者ってあの予言者か。

 外れることもあるんだな。


「そうですね。僕も驚きました」

「ああ。あんたが戻ってきたと聞いて巫女さんが青ざめてたよ」


 巫女?


「巫女様が……ふむ。もしかしたら」

「ん?」

「いえ、なんでもありません。恐らく今頃大巫女様にお灸を据えられていることでしょう」

「どういうこった?」

「そんなことより、さっさと終わらせてください。船長がしびれを切らして暴れ出さないうちにお願いします」


 どういう意味だ!


「っはっは。くわばらくわばら。お、あんたが船長か」

「はい。船長のモナカです」

「作業に取りかかりてぇんだが、船の技術者は誰だ?」


 技術者……エイルと言いたいところだが、やっぱり鈴ちゃんか。


「鈴、この人たちに教えられるか?」

〝はい、可能です〟

「よし、頼んだ。えー、鈴に従って作業をお願いします」

「……子供の声にしか聞こえなかったぞ」


 すっごいしかめっ面でイラついた声だな。

 初めてならその反応も仕方ない。

 でも直ぐにその評価を覆すことになるさ。

 いや、その前にお前が理解できるかな。


〝兄様、わたくしが対応するのでございます〟

「そうか?」


 子供が言うよりは従ってくれるか。


「なら任せた」

〝任されたのでございます!〟

「貴方よりは年下ですが、アレの指示に従ってください」

〝兄様?!〟

「チッ、女かよ」


 む……確かに女の技術者なんて多くは居ないだろうけど、アレはアレで結構できる女だぞ。

 口に出して言うと図に乗るから内緒だけど。

 こういうときにエイルが居ないのは痛い。

 居たら今頃にらみ合っていたことだろう。

 技術者たちがゾロゾロと船に……いやいや、そんなに入らないって。

 しかもなんだその大きさの装置は。

 というか木製? いや、石製か?

 金属っぽさがない。

 まーこの世界で金属っぽいものはほとんど見ないからな。

 あれを何処に取り付け……って、船の上かよっ。

 残っていた技術者がはしごを掛けて上に昇り、装置を引っ張り上げ始めた。。

 大丈夫か?

 あれがアンテナらしい。

 あれで電波ならぬ魔波? を送受信するのかな。

 この船なら空気抵抗とか関係ないだろうけど……見てくれが悪い。

 ……ん? なにやら騒がしいな。

 あ、技術者たちが船から転がり出てきたぞ。

 どうなっているんだ。

 ナームコが蹴り飛ばしているのかっ。


『なにやってんだ』

『それはわたくしの台詞なのでございます。やはり魔素しか扱ったことのない連中には難しかったのでございます』

『だからって追い出してどうするんだ』

『わたくしが全てやるのでございます』

『おいおい。大丈夫か? 確か魔素の扱いは苦手って言っていなかったか』

『兄様っ! 覚えていてくださったのでございますね。わたくし、感涙が止まらないのでございます』

『そういうのいいから。その涙で〝前が見えません作業に失敗しました〟とか、洒落にならないからな』

『そのような失態は犯さないと断言するのでございます』


 断言ね。

 ならそっちは大丈夫だろう。


『ああっ、でも兄様になら犯されてもよろしいのでございます』


 黙れ変態!

 あれは放っておくとして、問題は技術者たち(こっち)だ。

 と思ったが、こっちはこっちでデイビーがいつものポーカーフェイスで物静かに淡々と対応している。

 あの顔からはよく分からないが、多分怒っているのだろう。

 ギャーギャー騒いでいた技術者たちが借りてきた猫のように大人しくなっている。

 デイビーは声を荒げているわけでも鬼の形相をしているわけでもない。

 だというのにあの静けさ。

 俯いて震えている者も居る。

 一体どんな脅し文句を言っているのだろう。

 あれだけ威勢のよかったヤツがあの脅えよう……

 知りたいところだが、知らない方がよさそうな気がする。

次回、アンテナを取り付けて第1章が終わります

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