第114話 ターゲットは……
中に入ると今回はまだ誰も居なかった。
「誰も居ませんね」
「そうだな」
「だって今から呼ぶんだから、居なくて当たり前だよ」
「今から呼ぶ? どうやって?」
「ん? これを押すだけだよ」
「これ?」
押すと言っているが、ボタンがあるわけじゃない。
掌サイズで縦長の板のようなものが壁に張り付いている。
何度も押されているのか、真ん中がテカテカとしている。
それを掌でタンッと叩いた。
……なにも起こらない?
「なにも起こらないようですね」
「そうだな」
「そうなんだよねー。これ本当に押せてるのか分かりづらくて困るんだよ」
「で、押すとどうなるんですか?」
「だから、みんなが集まってくるんだよ」
「そういうことではなく……」
「ん?」
聞くだけ無駄か。
〝川は川だよ〟って言うくらいだ。
〝ボタンを押したらみんなが集まってくる〟以上の情報は無さそうだ。
「なんでもありません」
「変なの。とにかく少し待ってれば何人か来ると思うよ」
「何人か?」
「そ」
適当だなぁ。
本当にリーダーなのか?
「それは来ない場合もあり得る、ということで御座いますか」
「あーそうだね。来なかったこともあるかな」
あるんだ。
「しょうがないよ。みんな仕事があるからね」
「そうですか」
仕事の合間を縫ってここに来るんだっけ。
「どのくらい待てばよろしいのでしょうか」
「さあ?」
さあって……
そんなんでいいのか。
「皆様を待つ間、先にお話をして頂けませんか」
「えーヤだよ。二度手間じゃん」
そうかも知れないけど。
「では、要点だけでもお願いできますか」
「要点? んー、今日倒す魔神が決まったからその話し合い」
「左様で御座いましたか」
「って、〝今日倒す〟?!」
「五月蠅いなー怒鳴んないでよ」
「あ……すみません。じゃなくて! ……魔神を倒すんですか?」
「ここに来たとき話したよね。魔神からの解放だって」
「そうなんですけど……」
今日?!
前々から計画を立てるものじゃないのか?
今日って……行き当たりばったりじゃないか。
しかも招集も難しいのに今日?
戦力が揃うのか?
「となると、俺たちが呼ばれたってことは」
「戦力として数えてるよ」
やっぱりかっ。
「僕たちに戦えと仰るのですか」
「協力してくれるんでしょ」
「主役は貴方たちです。僕たちはあくまで後方から支援をするのみ。主力と思わないで頂きたい」
「えー?!」
主力として考えていたのかよ。
「戦力は出し惜しみしたら勝てないんだよ。勝つためならなんだって使うわ」
「今までも勝ってきたのではないのですか。これは憶測ですが、ウッド様を倒したのは貴方たちではないのですか」
「ウッドさんてワンさんの前の魔神か? 確かナユダさんが魔物に襲われたときに助けてくれた魔神だよな」
「恐らくナユダ様が囮になって魔物に襲われたところをウッド様が救出に入られた。そして戦闘で疲れたところを……違いますか」
「……そうよ」
マジか。
「では今回もそのようにされては如何ですか」
「今回はちょっと違うのよ」
「違うとは?」
「普段なら魔神と神獣が1匹ずつなの。でも今回は神獣が2匹なのよ」
魔神を1匹扱いか。
表と裏でこうも違うんだな。
「その情報は確かなのですか」
「あとはみんなが来てから話すわ」
「ふむ……」
みんな……ね。
どのくらい待てばいいのかな。
招集方法がいい加減すぎる。
こんなんでよく組織として成り立っていたな。
でもそんな組織でも魔神を倒すことが出来ている。
印象よりしっかりした組織なのかも知れない。
「ではどの魔神様が標的なのかだけお教え願えますか」
「…………第三集落の魔神、ワンよ」
「ワンさん?!」
まさかワンさんだとは……
「どうしてワンさんを選んだんですか?」
「選んだわけじゃないわ。ワンの情報が得られたからよ」
「それはどんな――」
「だからみんなが来てから話すってば」
……気が重いな。
『船長、いずれはワン様も駆除対象になるのです。ただそれが最初だっただけのこと』
『それは……そうかも知れないけど』
〝駆除対象〟か。
分かってはいるけど、やりづらい。
次回、終わりません




