第10話 最期の旅立ち
「またここに来ることになるとはなー」
以前試験を受けに来たときはもう来ることも無いと思っていたのに、結局来ることになってしまった。
とはいえ門から入ろうとしてもアトモス号が大きくてくぐれない。
ならどうするか。
簡単だ。上から行けばいい。
門の上にも結界が張られているらしいが、そんなものは前回同様穴を開けてくぐって閉じればいい。
それをモニター越しに見ていたデイビーがあきれ顔になっていた。
「本当に1時間で着いたことも驚きでしたが、ここまで見せられると受け入れるしかないようですね」
転移門のある小屋の隣に着陸させて船外に出る。
鈴ちゃんとナームコはまたお留守番だ。
相変わらず小屋以外なにも無いな。
門から警備員らしき人が出てきて銃をこちらに向けてきた。
勘弁してください。
「やめなさい。正規の手順をふまずに中へ入ったことは謝ります」
「デイビーさん! まさか、これが例の?」
「そうです。……おや、技術者を手配しておいたはずですが、彼らは何処に?」
「はっ、まだこちらには誰も……」
「怠慢ですね。こちらで連絡を取ります。モナカ様たちは入省手続きをしていてください」
「ああ、分かった」
「こちらです」
手続きといっても身分証を読み取り機にタッチするだけで直ぐに終わる。
俺は携帯を、時子は携帯を、アニカは身分証をかざす。
読み取り機の画面には〝ゲスト入省〟と表示された。
手続きが終わって戻ってみると、デイビーはまだ通話していた。
「――とにかく、急いでください。……失礼、お見苦しいところをお見せしてしまいました」
「技術者は来るのか?」
「それが……来るのはまだ先だと思っていたらしく、準備が終わっていないと」
「おいおい。大丈夫なのか? こんなところで足止めとか嫌だぞ」
「申し訳ありません。今日中にはなんとかさせます」
「今日中?!」
結局足止めか。
ただでさえ寄り道させられているというのに。
「もう要らないから行こうぜ」
「マスター、前回みたいに離れたときの通信手段はあった方がいいと思うよ」
「そうか? 離れなければいいだけじゃないか」
「万が一の時に備えようよ」
「仕方ないな」
「申し訳ございません」
「いいよ。デイビーは悪くないし、謝られたって早くなるわけじゃないだろ」
でもそうなると鈴ちゃんを外に出してあげたいな。
と思ったのだが、作業がいつ始まるか分からないし、作業中にアトモス号を監視するためにもこのままの方がいいとナームコに言われた。
監視なんてルイエに任せておけと言ったが、まだ不安があるからと断られた。
ルイエは最後まで一人で出来ますって騒いでいたけど。
そうこうしているうちにやっと来た……と思ったら。
「食料は要らないと伝えたはずですが」
「いえ、ですが」
どうやら食料や野営の道具が先に来たらしい。
本当に必要無いんだけどな。
「他の必要な者たちに分配してください」
「結界の外に行かれるんですよね。必要無いはずが」
「信じがたいとは思いますが、本当に要らないんです」
「とても信じられません」
「僕も同感です」
同感なのかよ。
「ですがこれは船長命令なんです」
「船長命令……」
デイビーが俺を見ると、食料などを持ってきてくれた人たちが一斉に俺を睨み付けた。
「貴方、なにを考えてるんですかっ。みんなを殺すつもりですかっ」
「そんなつもりはありません。が、必要無いのは事実です」
必要最低限の食料は積んであるし、いざとなったら直ぐ帰れるからな。
「それにそんな沢山の荷物を積む場所がありません」
「荷馬車くらい出せます」
「足手まといです」
主に速度的な意味で。
「最速の精霊が牽く荷馬車です。遅いことはありません」
「では、この星を1周するのに何時間かかりますか?」
「何時間?! そんな短時間で回れるわけないでしょ」
普通そうだよな。
多分俺も知らなければそう答える。
でも……
「話になりません」
「なっ……だったらその丸っこいのは何時間で回れるっていうんですかっ」
丸っこいの……確かに水滴型だけどさ。
「1分と掛かりません」
本当は1秒もかからないと思うけど。
あ、でも推進器が壊れているんだっけ。
1分は盛りすぎたかな。
「…………デイビーさん。貴方ともう会えなくなるのは寂しいです」
なんだそれは。
「やめてください。縁起でもない。僕は帰ってきますよ」
「外は初めてなんでしょ。その上上司がこれじゃ……」
悪かったな。
「そうかも知れませんが、一応彼らは帰還者です」
「帰還者……」
帰還者? 結界の外に出て戻ってこられた人のことかな。
雰囲気的にそうなんだろう。知らんけど。
「だとしても!」
「やめなさい。それ以上は命令違反として報告しますよ」
「俺たちは貴方を心配して――」
俺たちの心配はしてくれないのか。
「分かっています。それだけで十分です」
「……分かりました。引き上げます」
「部長!」
「いいんだ。彼らの最期の旅立ちをよく目に焼き付けておけ」
「部長……」
縁起でもない。
とはいえ、無事に帰ってこられる保証なんて何処にも無い。
〝ほれ見たことか〟とか言われないようにしないとな。
などと揉めているうちに漸く技術者たちがやってきた。
次回はナームコ回です




