第99話 好きな人と繁栄したいと思うのは普通のことだよ
「……カ」
ん……
「……ナカ」
んん……
「モナカ」
あっ、しまった。すっかり寝ちまったな。
タイムと時子はどうしたんだ?
「ねぇ、モナカぁ」
……時子か?
時間は……もうすぐ日付が変わるくらいか。
「どうした?」
「一緒に……来て」
「なんだ。トイレか」
「…………うん」
「子供かよ。怖い夢でも見たのか?」
「…………うん」
マジか。
怖い夢を見たくらいでトイレに行けなくなるとか、ちょっと可愛らしいな。
「しょうがないなあ」
席を立って時子の手を……触るなってタイムに言われていたっけ。
時子の前に立ってトイレに向か……お? 時子が背中にしがみ付いてきたぞ。
そんなに怖い夢だったのか。
服越しだからオッケー?
時子から触れているんだし、離れろっていうのも可哀想か。
それにタイムはなにも言ってこないし……って、[離席中]?
何処行ったんだ。
暗闇の中、計器類の明かりを頼りに階段を上がってブリッジを出る。
トイレは船内に1つだけで、かなり狭いが窮屈ではない。
実際に使ったことはないけど。
だって目的地に一瞬で着くからな。
宇宙にでも行かない限り必要なさそう?
壊れていて行けないけど。
中は普通のトイレだ。
重力制御装置のお陰で無重力空間でも問題なく使える。
「着いたぞ」
「……ん」
「って、おい押すなって」
狭いトイレの中に押し込まれてしまった。
そこまで怖い夢だっていうのか?
しかも扉の閉まる音と鍵の掛かる音が聞こえたような……
って、肩を掴まれて向き合わさせられたと思ったら、押し倒され……!
強引に唇を合わせて来やがった。
キスなんて生易しいもんじゃない。
こいつ、こんなに力強かったっけ。
狭いこともあって動けないぞ。
「おむ、もおくこ!」
ダメだ、まともに声にならない。
『おい、時子! なにしているんだよ。今日の分のキス……じゃなかった。充電なら済ませただろ』
『………………』
『おいっ!』
『もう……無理』
『え? なにが』
『我慢……出来ない』
『我慢? とにかく一旦離れてくれ。タイムに触るなって言われているんだからさ』
『お願い、触って』
『……はあ?!』
『は、早く……ねぇ』
とにかく一旦ひっぺが……くっ。
マジなんで勝てないんだ?
そりゃ右手で思いっきりやれば引き離せるだろうけど、加減を間違えれば怪我させちまうからな。
『落ち着けって。どうしちまったんたよ』
『身体が……熱いの』
『熱い? 熱でも出たのか』
『身体が火照ってしょうがないの。お願いだから……』
『だから、なんだっていうんだよ』
今度は舌をねじ込んで来やがった。
ディープキスってヤツか?
ま、まあタイムとやったことあるけど、なんか違うぞ。
口の中をかき回されるというか、俺の舌を舐るというか、口の中を貪られている感じだ。
『って、おい! なに服を脱がそうとしているんだよ。止めろっ』
『こんな邪魔なもの……要らないでしょ』
『邪魔って……お前おかしいぞ。どうしたんだよ』
『私が相手じゃ不満なの?』
『相手ってなんだよ!』
『お腹の奥が疼くの……ね、どうすれば治まると思う?』
『ど、どうすればって……』
これ、絶対香木の影響だろ。
『おいナース!』
『………………』
『ナーーースっ!』
チッ、[出張中]から変わりゃしない。
時子がこんな状態の時になにやっているんだ。
朝には治まるんじゃなかったのかよ。
悪化しているじゃないかっ。
それになんか思うように力が入らないし。
上着のボタンを外されて脱がされちまったぞ。
と思ったら、今度は自分の上着を脱ぎ始めただと?!
『おまっ……なに考えているんだよ。そんなことしたら……』
『したら……なに?』
『う……』
『いいよ、好きにして』
『な、なに言っているんだよ。馬鹿じゃないの……』
『私がいいって言ってるんだから、ほら。ね』
『や、止めろって。目のやり場に困る』
『困ること無いじゃない。私が見せてるんだから』
『そ、そういう問題じゃ……』
あの匂いって、こんなにも人を狂わせるものなのか。
ヤバすぎるだろ。
『そういう問題よ。でもこっちは正直みたいね』
『ばっ、何処触っているんだよ』
『あなたの硬くて大きくなったお――』
『言わなくていい言わなくていいっ! どうしたんだよ、一体』
『ふふっ、窮屈そうで可哀想。ほら、出ておいで』
『だぁぁぁぁっ! ファスナーを下ろすなっ』
くそっ、なんでこんなにも力が入らないんだっ。
時子の手を押さえても、下ろすのを止められない。
『ああ、でももっと狭くて熱いところに入れられちゃうから、窮屈なことに変わりはないかな』
『いい加減にしろよ。なに言っているか分かっているのか!』
『分かってるわよ。はっきり言わないと分からない? モナカのエッチ』
『エッチなのは時子だろっ』
『好きな人と結ばれたいって思うのは、エッチなことなの?』
『好き……って』
時子の好きな人は真弓先輩だろ。
『正気になれ。今香木でエロい気分になっているだけだ。元に戻ったとき、絶対後悔するぞ』
『しないわよ。だって、私をこんな気分にさせるのはモナカだけだもの。デイビーさんやダイスさんにはなにも感じなかったわ。ね、これって私はあなたが好きってことなんだよね』
〝ことなんだよね〟って言われても……
それが本当なら嬉しいけど、でも……くそっ。
『アニカ! 起きろっ』
『ひゃあ! え、モナカくん? どうしたの』
『今すぐ時子に眠るように命令してくれ』
『ええっ?!』
『朝までぐっすり寝るように命令してくれ』
『ど、どうしてだい?』
『いいから早くっ』
『モナカ……また誰かと個人会話してるでしょ』
『あ、いや。そんなことは……』
『ね、今だけでも構わないから私だけを見て』
『アニカーっ!』
『トキコさん、朝までぐっすり眠ってくださいっ!』
『う……うく……は…………は……い』
よし、これで時子は朝まで寝ているはずだ。
次回、久しぶりに考察をします




