【狂い昔話・悲】仲良しだったうんことしっこときんたま
【注意】うんことしっこときんたまが出てきます
むかしむかしあるところに、うんことしっこときんたまが住んでいました。彼らはとても仲が良く、毎日一緒に寝ていたそうな。
そんなある日、難しい顔をしたしっこがこんなことを言いました。
「オラ、きんたまの裏を見ちまった」
うんこはしっこの言葉に驚くことなくこう言いました。
「そうか、実はオレも先週見たんだ。じっくりとな」
なんと、すでに2人ともきんたまの裏を見ていたのです。やはり3人で仲良く暮らしている身ですから、2人ともきんたまのことを言い出せなかったのでしょう。
「うんこは何を見たんだ?」
「路地裏で薬物の取引をしてるのを見ちまった。お前さんは?」
「オラは、きんたまが街中で通行人の首を次々とはねているのを見ちまった」
「おお、派手だなぁ」
やはりきんたまに裏の顔があるのは間違いないようです。2人は考えました。
「どうにかして暴走を止めないとな」
「そうだな。しっこ、なにか案はあるか?」
薬物取引をしていようと、街中で通行人の首をはねていようと、彼らにとってきんたまはかけがえのない大切な友人なのです。2人は彼を救うために知恵を絞りました。
「そうだなぁ、きんたまを止めるために出来ることなぁ⋯⋯ないな!」
「ないのかよ!」
ないみたいです。
「ちっすちっす」
2人が話しているところに仕事を終えたきんたまが帰ってきました。全身に赤い液体がついています。
「なぁきんたま、お前さん仕事はなにをやってるんだい?」
しっこが聞きました。
「ペンキ屋だよ」
返り血の言い訳でしょうか、きんたまは嘘をついているのかもしれません。仲良し3人組の中で嘘をつくことは最も重い罪であり、バレれば即逮捕、からの地獄行きが確定します。
「きんたま、今からオレがする質問に正直に答えてくれ」
「どうしたんだよそんな改まって」
うんこが真剣な顔をしてきんたまに言いました。きんたまは少し驚いた様子を見せています。
「しっこがな、お前が街中で通行人の首をはねているのを目撃したそうなんだ。オレもお前が薬物の取引をしている現場を見た」
「質問するって言わなかった?」
「知らん」
「え、なんで怒ってんの⋯⋯」
うんこはテンパっているせいで上手く話すことが出来ません。なにせ相手は人殺しなのですから、テンパるのも無理はありません。その結果、質問をすると言っておきながら質問をせず、そのことを聞かれると理不尽にキレてしまいました。
しかし、これできんたまの本性が分かりました。うんこがきんたまの行いを見ていたと告げても、きんたまは顔色ひとつ変えません。自分は特別悪いことをしているわけではない、と言わんばかりの表情です。
「お前さん、自分が何をしたか分かってるのかい」
しっこが詰め寄ります。
「フン、俺のやってる事をお前らにとやかく言われる筋合いはねぇよ」
悪びれる様子のないきんたま。
「そうか、なら出てけ。今日からここはうんこしっこハウスに改名する」
うんこが言いました。この家からきんたまを追い出すつもりのようです。
「俺に出てけっていうのか! フン、うんこの分際で偉そうに⋯⋯この際だから言ってやるけどな、俺はお前らのことなんかこれっぽっちも好きじゃねぇ! ただ住むところがなかったから一緒にいてやってるだけなんだよ!」
「きんたま⋯⋯!」
きんたまの言葉を聞いたうんこは怒りをあらわにしています。
「だいたいな、お前らは人間から出たただのカスなんだよ。言っちまえば人間の死んだ姿そのものなんだ。なぁうんこよ」
「くっ! 言いたいこと言いやがって⋯⋯!」
きんたまの正論になす術のないうんこ。
「そんなお前らとは対称的なこの俺様のすごさよ。生命の源だぜ? 男の要だぜ? 初めからお前らとは住む世界が違うんだよ、住む世界がなぁ!」
「うわぁーん!」
「うえぇぇん!」
うんことしっこは泣き出してしまいました。ひとしきり泣いたあと2人は立ち上がり、きんたまの両腕を持ちました。
「裁きを与えん」
「ああ、此奴を葬ろうぞ」
「な、なにするつもりだ! おい、お前ら! 俺はきんたま様だぞ!」
きんたまの両腕を後ろに持っていき、手錠をかける2人。
「これより貴様に罰を与える」
「ペンキ屋だと嘘をついたことを地獄で後悔するがいい」
嘘をついたら即逮捕、からの地獄行き。彼らのルールです。
「いや、ペンキ屋は本当だけど」
「えっ」
「えっ」
「確かに悪いこともしてたけど、ペンキ屋なのは本当。仕事帰りに首はねてきたの」
これではきんたまに罰を与えることが出来ません。2人は考えました。きんたまを陥れる方法を。
「とりあえず手錠外してくれない?」
「⋯⋯⋯⋯」
2人は動きません。考えているのです。
「いいから外せよ! 警察に言うぞ! こんな事してるのが警察にバレたらお前らどうなるだろうな、良くて地獄行き、悪くて天国行きか? なぁ?」
「うわあああああ! うるさい! 死ねぇ!」
追い詰められたうんこは、きんたまを殴り殺してしまいました。動かなくなったきんたまを2人はしばらく見つめていました。
「オラ知らねぇだ。オラは殺してねぇだ」
しっこが口を開きました。確かにしっこはきんたまを殺した訳ではありません。
「自分だけ逃げるつもりかよ! 頼むよ、協力してくれよ!」
「オラ知らねぇだ。オラ知らねぇだ。オラ知らねぇだ」
しっこもまた、おかしくなっていたのでした。かつての親友が親友によって殺され、その後始末をしなければならない、そんなことは彼には荷が重すぎるのです。
「うるせぇ! 同じことばっか言いやがって!」
「だってそうだろ! オラは殺してねぇ! お前さんが殴って殺したんじゃないか! オラを巻き込むのはやめてくれよ! じゃあな、ちょっと街へ買い物に行ってくる!」
しっこはそう言って家を出ようとしました。
「そうか、分かったよ」
うんこが無表情でボソッと言いました。うんこの拳がしっこの後頭部に迫ります。
ボカッ
しっこはその場に倒れ込みました。しっこの身体はどんどん冷たくなっていきます。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯オレは悪くない⋯⋯オレは⋯⋯」
うんこは床に倒れる2人を見下ろしながら呟いています。まるで自分に言い聞かせるように、何度も何度も呟くのでした。めでたしめでたし。
こんな話になると思わなかったです。もっと楽しくてくだらない話になると思っていました。うんこ、なんでやっちまったんだよ⋯⋯