出勤
仕事がある日は、いつも気が重くなる。
学生やサラリーマン達も、そう思っている事だろう。
そんな事を考えながら電車を降りる。
駅のホームは通勤や通学の人達でいっぱいだ。
もう少し早く家を出ればよかった、と後悔をしてももう遅い。
人混みを押し除けつつ、早足に職場へと向かった。
職場に到着し、霜月千は勢いよくドアを開けた。
「おはようっす」
「おや、早いね。千くん。早いのはいいけれど、もう少し静かにドアを開けられないかな」
そう話すのは、異能捜査官のリーダーである三神風郗。
物腰が柔らかく好印象な人だ。少なくとも千はそう思っている。
「次は気をつけてくれよ」
「了解」
自分のデスクに荷物を置き、イスに座る。
「三神さん。何か新しい事件とか、ないすか」
何か退屈凌ぎになるようなことはないかと、風郗に尋ねる。
千は退屈が嫌いなのだ。
「あるよ。ちょうど千くんがやりたそうな事件だ。やるかい?」
「誰か強いヤツとかいるんすか!?」
食い気味に千が聞くと、風郗は困ったような笑みを浮かべて答えた。
「強いかどうかは分からないけれど……けっこう有名な人だよ。裏社会だと」
「裏社会ってことは、強い奴もいますよね」
「うーん、本当に千くんは強い人と戦うのが好きだね」
風郗の問いに、千はそれは当たり前のことだと言わんばかりに口を開いた。
「だって、楽しいじゃないすか。自分より強いやつと戦えるの」
そんな事を話していると、ドアが開いて1人の男性が入ってきた。
「今日は早いね。椿」
「んぁ?あー。やる事ねぇし」
「ふふっ。そうか。丁度よかった。新しい依頼があるのだけれど、千くんと一緒に行ってくれないかな?」
「また事件か」
「うん。能力持ちの人に一般人が殺された。調査と、できれば犯人を逮捕してほしい」
「分かった」
「これは資料だ。何か役に立つかもしれないから持っていくといい」
椿は風郗から資料を受け取ると、ジャケットを羽織り歩き出した。
「千、行くぞ」
「あっ、待ってください椿先輩!」
急いで椿の後を追う千。風郗はそんな2人を微笑ましそうに見送った。
施設を出た後、椿は資料に目を通しつつ歩いていた。
「遺体の首に痣の様なあと、か……」
「痣?」
「とりあえず現場行ってみるぞ」
「はい!」
現場に着くと、先に大城が現場に入っていた。
「……お、椿。今日は捜査官の仕事か。大変だな」
「お前もお疲れ様。遺体を見たいんだが」
「ああ。そこにあるぞ」
遺体に黙祷し、周囲を観察する。
見たところ、首の痣以外に傷はなさそうだ。
「犯人はどうやって殺したんだろう……」
「それを調べるのが俺達の役目だろ、千」
「うっす」