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小人シリーズ

黄色い小人とイタズラ坊主

作者: 彩葉

小さなお子様にも読み聞かせられるお話を意識しております。

ある所に小人たちが暮らす原っぱがありました。


小人たちは毎日大忙しです。


家の近くで見つけたキレイな小石をピカピカに磨いたり、木の実を挽いて粉にしたり、疲れて動けなくなったカタツムリの背中を押してあげたり。


とにかくやる事がいっぱいあるのです。





「やれやれ、ようやくひと息つけそうだ」


家の周りの草むしりをしていた赤い小人が、よっこいしょと背中を伸ばします。


体の小さな小人にとって、草むしりは大変な大仕事なのです。


赤い小人の前にはむしった草が山のように集まっています。


「これだけ頑張ったんだ。家もきっと喜んでいるだろう」


流れる汗をふきふき、赤い小人は葉っぱの山に背を向けました。


目の前の赤い三角形の家も何だかいつもより嬉しそうです。


すると突然、後ろからバサバサッという音が聞こえました。


「おぉ、何だ、何だ?」


赤い小人がビックリして振り返ると、さっきまで積まれていた草の山がバラバラに散らばっているではありませんか。


「何てこった! せっかく集めたのに、やり直しじゃないか!」


赤い小人はプンプンと怒りながら散らばった草を片付け始めました。


風なんて吹いてないのにおかしな話ですよね。



さて、お隣に住む青い小人はというと、家の裏で洗濯物を干していました。


今日はとっても良い天気ですからね。


「やれやれ、やっと全部干し終わったぞ」


最近はずっと雨が続いていたので、久しぶりにお洗濯が出来た青い小人はご機嫌です。


「これだけ干せば、しばらく服に困らないだろう」


青い小人はよっこいしょとカゴを持ち上げて家に戻ります。


ところが突然、ガターンと大きな音が聞こえてきました。


「ぬぅ、何だ、何だ?」


青い小人が慌てて外に出ると、さっき干したばかりの洗濯物がサオごと地面に落ちてしまっているではありませんか。


「何てこった! せっかく洗ったのに、洗い直しじゃないか!」


青い小人もプンプンと怒りながらドロドロになった洗濯物を拾い始めます。


やっぱり風なんて吹いてないのに、おかしな話ですよね。



そんな青い小人の裏の家に住む緑の小人はというと、お部屋の模様替えをしていました。


「やれやれ、やっとここまで片付いたぞ」


あとは本を本棚にしまうだけです。


開けっぱなしにしていた窓や扉からソヨソヨと気持ちの良い風が吹いてきました。


「これだけ頑張ったんだ。少し休憩しよう」


緑の小人はブドウジュースでも飲もうとキッチンに向かいます。


すると突然、バサバサ、ゴトンという音が聞こえてきました。


「やや、何だ、何だ?」


緑の小人が急いで戻ると、沢山の本がグシャグシャに散らかっているではありませんか。


「何てこった! せっかく積んでおいたのに、順番がバラバラになってしまったじゃないか!」


緑の小人もプンプンと怒りながら本を集めます。


本が崩れるほど強い風は吹いてないのに、おかしな話ですよね。



「全く、誰があんなイタズラをしたんだ」


草を集め終えた赤い小人が文句を言いながら歩いていると、洗濯物を洗い直している青い小人に出会いました。


「全くひどい事をする」


青い小人もブツブツと文句を言っています。


二人が何かあったのかと首を傾げていると、緑の小人も家から出てきました。


「全く、何て事だ。本を片付けている間に、ブドウジュースが誰かに飲まれてしまった」


緑の小人もブツブツと文句を言っています。


三人の小人はそれぞれこんな目にあった、あんな目に合ったと話し始めました。


その内、誰かが「お前がやったんじゃないか」「何を言う。本当はお前がやったんじゃないか」などと言い出し、ケンカになってしまいました。



そこに黄色い小人がやってきました。


「やぁ皆、こんにちは……」


おや?


いつも元気な黄色い小人が、今日は元気がないようです。


気になった三人の小人が声をかけると、黄色い小人はションボリしながら言いました。


「実は、さっきクワの実を食べようと思ったら、クワの実が空を飛んで逃げちゃったんだ。ぼくに食べられたくなかったのかなぁ」


クワの実に嫌われてしまったのかもしれないと落ち込む黄色い小人に、三人の小人は「そんなバカな」と驚きます。


「クワの実が空を飛ぶ訳ない」


「夢でも見たんじゃないか?」


「オバケのしわざかもしれない」


なんという事でしょう。


もしオバケだったら大変です。


みんなに起きた悲しい出来事も、ひょっとするとオバケのイタズラだったのかもしれません。


「よし、オバケの犯人を捕まえよう」


赤い小人が言いました。


「またイタズラされたらかなわんからな」


青い小人が(うな)ります。


「だがどうやって捕まえるのだ?」


緑の小人が頭を抱えると、黄色い小人も首を傾げました。


「ぼく、オバケって会ったことないなぁ」



四人の小人たちはどうしたものかと相談し合い、少し離れた所に住んでいる混ぜ色小人の家を訪れました。


混ぜ色小人は灰色とも茶色とも言えない、何とも微妙な(コケ)のような色をした小人で、今まで色んな場所を旅してきた物知りさんなのです。


もしかすると混ぜ色小人ならオバケの捕まえ方を知っているかもしれません。


「いらっしゃい。皆さんがお揃いとは珍しい」


混ぜ色小人は四人の小人を温かく迎え入れてくれました。


皆の話を聞いた混ぜ色小人は、何かを思い出したように話し始めます。


「そういえば昔『目に見えない透明な小人がイタズラをする』というお話を聞いた事があります」


「見えない小人?」


どういう事でしょう。


そんな小人がいるなんて、今まで聞いた事がありません。


「誰も居ないように見えるけど、実は居るんです。誰にも見えないからイタズラをしても見つからないんだとか」


「なんて迷惑なヤツなんだ!」


怒った赤い小人がテーブルを叩くと、誰かがポカリ! と赤い小人の頭をたたきました。


「いてっ、おい、今誰が叩いたんだ!」


皆顔を見合せますが、誰も頭を叩いていません。


クスクス、クスクス。


小さな笑い声がどこからともなく聞こえてきました。


誰も居ないのに叩かれたり、声が聞こえるだなんて何だか不気味です。


本当に見えない透明な小人がいるのでしょうか。


それともやっぱりオバケなのかもしれません。


皆がちょっぴり怖くなっていると、混ぜ色小人が「そうだ!」と外に飛び出しました。


何だ何だと皆もついて行くと、混ぜ色小人は沢山の泥を集めるように言いました。


よく分からないけど、部屋の中でジッと怖がっているよりも面白そうです。


最近は雨が続いていたので、泥ならそこらじゅうにあります。


小人たちはせっせ、せっせと泥をかき集め、枝を使って平らにならしました。


広い泥の絨毯(じゅうたん)の完成です。


皆は泥の絨毯の真ん中で、出来た出来たと騒ぎます。


「しかし、これが一体何になるのだ」


「まさかただの泥遊びか」


「服もクツも汚れてしまったぞ」


赤い小人たちが混ぜ色小人に文句を言い出すと、ペタペタと小さな音が聞こえました。


「あれ? 皆見てよ。足あとが見えるよ」


黄色い小人が指差した先には、なるほど確かに!


誰も居ないのに足あとが増えていくではありませんか。


ペタペタ、ペタペタ。


足あとは小人たちの周りをウロウロと逃げるように動き回ります。


「なるほど、泥を集めたのはこの為か」


「これならどこにいるのかすぐ分かる」


「足があるならオバケではないな」


青い小人が泥をすくって足あとの方へ投げつけると、「ひゃあ」と小さな悲鳴が聞こえました。


泥はぶつからなかったけれど、十分ビックリしたみたいです。


「なにするんだ! 泥を投げつけるなんて、ひどいじゃないか!」


怒った声が聞こえますが、相変わらず姿は見えません。


ペタペタ、ペタペタと新しい足あとが増えていくばかりです。


小人たちも透明な誰かさんに言い返しました。


「ひどいのはイタズラをしたお前だろう」


「皆とても迷惑している」


「どうしてイタズラをしたんだ」


「クワの実、好きなの?」


皆が皆、好き放題に喋って動くものだから地面はすっかりグチャグチャです。


おかげで透明な誰かさんがどこにいるのか、また分からなくなってしまいました。


「うるさいなぁ。そんなに怒る事ないだろ」


透明な誰かさんがクスクス笑いながら走り回る音がします。


突然、黄色い小人の黄色い三角帽子がヒョイと宙に浮きました。


「わぁ、ぼくの帽子が!」


「この帽子良いね、もーらい!」


どうやら黄色い小人は透明な誰かさんに帽子を取られてしまったようです。


黄色い三角帽子がフワフワと辺りを行ったり来たりしています。


「すごいや、まるでぼくの帽子がひとりでにお散歩してるみたいだ!」


黄色い小人は手を叩いて喜びましたが、他の小人たちはすっかり怒ってしまいました。


「なんて事をするんだ」


「もう許さないぞ」


「捕まえてやる!」


「帽子を返して皆に謝って下さい」


透明な誰かさんを捕まえようと、小人たちは手探りで走り回ります。


けれど透明な誰かさんは見えない上にすばしっこくて、中々捕まりません。


「待て、どこだ!」


「へへ~んだ、待たないよっ」


しばらくチョロチョロとおいかけっこを続けていると、やがて「わぁっ」と誰かが転ぶ音がしました。


今のは一体、誰の悲鳴でしょうか。


五人の小人が顔を見合わせていると、地面の一ヶ所が小人の形に凹んでいました。


どうやら転んだのは透明な誰かさんだったようです。


「うぅ、いてて」


「大変だ! 大丈夫?」


黄色い小人が駆け寄ります。


透明な誰かさんは痛くて起き上がれないみたいです。


「ケガはない?」


手を差し伸べて心配する黄色い小人に、皆が文句を言います。


「そんなヤツの心配してどうする」


「自業自得だ」


「悪いヤツは放っておけ」


「まだ迷惑をかけるようなら帰ってもらいましょう」


そっけない皆の態度が悲しくて、黄色い小人は見えない誰かさんを引き起こしながら言いました。


「でも、見えないから心配なんだよ。だってケガしてても見えないんだよ?」


黄色い小人の言葉を聞いて、皆はハッとしました。


よくよく耳を澄ませてみると、グスグスとベソをかく声が聞こえます。


もしかしたら見えない誰かさんは泣いているのかもしれません。


「言われてみれば確かに」


赤い小人が駆け寄ります。


「見えないからこそ、どうなっているのか分からないな」


青い小人も近付きます。


「見えてなくても、居ない訳ではないしな」


緑の小人がハンカチを取り出します。


「誰も気付かない内に大ケガしてたら大変ですよね」


混ぜ色小人もハンカチを差し出します。


透明な誰かさんは、身体中にベッタリと付いた泥のおかげでどこにいるのか丸わかりです。


黄色い小人の手を掴んだまま、心配そうに騒ぐ小人たちに囲まれて気まずそうにしています。


「あの、イタズラしたのに心配してくれてありがとう。それと、イタズラしてごめんなさい」


泥まみれの誰かさんがペコリと頭を下げると、黄色い三角帽子がズルリと落ちそうになりました。


あっ! と黄色い小人が受け止めたので、帽子は地面に落ちる事なく黄色い小人の手に戻りました。


「あぁ、良かった。汚れなくて」


「うう、本当にごめんよ」


透明な誰かさんはすっかり反省したようなので、皆は笑って彼を許します。


そして彼についた泥を落としてあげる事にしました。



「しかし、見えない小人がいるとはな」


赤い小人がタライを用意します。


「本当にオバケではないんだよな?」


青い小人が水を運びます。


「なぜイタズラをしたんだ?」


緑の小人が石鹸を持ってきます。


「服も透明なんですか?」


混ぜ色小人が火を起こします。


「黄色の帽子って良いよね」


黄色い小人がタオルを用意します。


五人の小人にバシャバシャと洗われ、すっかりキレイになった透明な誰かさんは、またどこに居るのか分からなくなってしまいました。


「オイラ、透明小人。服も透明なのしか持ってないよ。いつも誰にも見つけてもらえなくて、寂しくてイタズラしてたんだ」


誰にも見つけてもらえないだなんて、想像するだけで寂しい話です。


小人たちは透明小人が可哀想に思えてきました。


「そうだ、それならこの帽子をあげるよ。これを被っていれば、キミがどこにいるかすぐ分かるもの」


黄色い小人が取り戻したばかりの三角帽子を差し出せば、他の小人たちも「それは良い」と頷きます。


遠慮がちな透明小人に構わず、皆自分のお気に入りを持ち寄る事にしました。



赤い小人が透明小人に赤い上着を渡します。


「この上着をやろう。目立つし、暖かいぞ」


青い小人は青いカバンを渡します。


「このカバンをやろう。涼しげだし、便利だぞ」


緑の小人は緑のズボンを渡します。


「このズボンをやろう。落ち着く色だし、動きやすいぞ」


混ぜ色小人は(コケ)のような何とも言えない色のクツを渡します。


「このクツをどうぞ。汚れが目立ちませんよ」


黄色、赤、青、緑、混ぜ色。


色んな色を身に付けた透明小人は、どこに居てもすっかり目立つ格好になりました。


「わぁ、キレイ! これでもう見つけてもらえないなんて事はないね!」


そう言って黄色い小人が肩を叩いてやれば、透明小人が恥ずかしそうに頷くのが帽子の動きで分かりました。


「皆本当にありがとう! オイラ、今までイタズラして困らせた人たちの所に謝りに行くよ」


「それは良い考えだね」


お別れは少し寂しいけれど、そういう事なら仕方ありません。


「また遊びに来い」


「次はイタズラはなしだぞ」


「許してもらえると良いな」


「お気を付けて」


「元気でね!」


五人の小人がお別れの言葉を投げかけると、目立つ格好をした透明小人も大きな声で返しました。


「絶対にまた来るよ! 見つけてくれて本当にありがとう!」





あれからどれだけ経ったでしょう。


小人たちの住む原っぱに、ある風の便りが届きました。


姿は見えないのにとっても目立つ小人が、困っている誰かを助けながら旅をしているという噂です。


「その小人って、もしかして……」


もしかするのかもしれません。


不思議で素敵な噂を聞いた五人の小人たちは、ピョンピョコ跳び跳ねて喜んだのでした。

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