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トニオンの猫  作者: ハナタカ
第1章
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夢見る猫

 例えば仲の良い恋人同士みたいによ、朝から夜まで毎日毎日、いつでも〝べったり〟引っ付いて、なにがあろうと決して離れることなく、いつまでも側にいて欲しいもんだぜ。こればっかりは本当に。

 俺みたいに、運悪く(日頃の行いってやつは、どうやら全く参照されないみてぇだな)その〝別れ際〟ってのに遭遇しちまったら、誰だってそう思うに決まってる。

 まるで、膝まで伸びた靴下を一気にずり下ろしたみてぇだった……。そう、上から下まで一瞬で――〝肉と骨とがお別れ〟した。


 ほんのついさっきまで、俺と同じように〝肉付き〟のよかった男が(念のため言っとくが俺はデブじゃねぇぜ)、〝ある合図〟とともに急に血飛沫を派手に上げた――と思ったら、まるで服でも脱ぎ散らかしたみてぇに(って、実際服も込みだったが)足元に肉をぶちまけてた!だらしねぇ奴だぜ全くよぉ!

 それから一瞬遅れて自分が事切れたと知った〝がりがり〟野郎は(この時骨の内側には、未練がましくまだ〝色々〟残ってたわけだが、華奢な野郎の足では当然それを支え切れる分けもなく)、咄嗟に〝空気を読んで〟、ゴトゴトと気味の悪い音を立てながら、慌てて体を畳んでいった。


 俺もそろそろこの光景に慣れておきたいところだが、困った事に――これが〝何度見ても〟退屈な気分になれねぇ。ケチな(張りの小せぇ場の)カード切ってる時はあんなにも退屈になれるのによぉ……。

 真っ赤な恐怖はどれも、いつでも取れたて新鮮だったから。(どっちかってぇとトマトに合いそうな言い回しになったのは、きっと今も俺の目を釘付けにしてる〝あれ〟のせいだ)

 俺は震える自分の体を、これまた震える手で強く抱き締めた。決して離れたりしねぇように……あんな形でお別れが来てたまるかってんだ!(俺が守ってやるからな、絶対!)

 あと……さっきも言ったけどよ、この一連の出来事――全ては、〝ある合図〟から始まった。

「終わったぞ、ほらおいで」…………あのガキだ。


「お前は怖くないだろ?ほら、おいでってば」

 ――怯える俺をチラッと横目にしたあと(次は俺の番かと本気でびびった)、奴は猫なで声でそういった。(こっちはもう少しで金切り声を上げちまうとこだったってのによぉ)

 飼い主に似て愛想もくそもねぇ灰色の〝猫〟に、「やれやれ」といった感じで近づいていく〝くそガキ〟。愛想がねぇのは大いに結構だが、年上を敬う気持ちってのまで足りねぇとなると、〝くそ〟が付かねぇ分あの猫の方が千倍もマシだ。

 俺はその〝見た感じ〟まだ15かそこらの歳のガキに、理由あって二週間前から今日まで、旅の道連れにされて(どうやら改める必要がありそうだ)、ずっといいようにこき使われてる!(俺の日頃の行いってやつを!)

 …………〝しかし〟だ。


 そんな目に逢いながら、それを不本意に感じながら、それでもなお――俺が奴の〝言いなり〟になってるのは何故だと思う?

 〝恐ぇから〟だよ。

 あいつは指先一つで、指一本触れることなく、〝人様の肉〟を勝手にひっぺがす。

 これが魚ってんなら、俺はレストランでも開いて、そこで奴を雇ってやってもいい――テーブルから厨房を覗けるようにして。客は上流階級をターゲットに、ドレスコードを設けておこう――そしてお待ちかね、〝赤ワインの日〟。普段から金をポケットで腐らせちまってるようなイカした紳士淑女の皆々様を相手に……〝奴をまな板に乗せて〟、解体ショーの開始を告げるベルを目一杯振る。コックはもちろんこの俺だ! 俺の包丁裁きに奴は、金切り声をあげながら一つ、また一つとその身の数を増やしていく……。

〝乾杯〟――いいぞ……いいぞいいぞいいぞ! ぞくぞくする!決めた!これを俺の夢にするぞ!(そうと決まればわくわくする!) そして必ず現実にしてやる――――。

 おっと、すまない。話が逸れちまってた。

 確か…………そう、あのガキの……身の毛もよだつ程の恐ろしさについてだったな。(短い夢だった)


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