猫の中の猫
トニオンは〝猫〟を二匹飼っている。その内一匹は猫で、もう一匹は猫である。
トニオンが二匹を猫と呼ぶのは、なにもそれが本当に〝猫だから〟というわけではない。(もちろん彼にとっては〝猫だから〟で間違いはないのだろうが……)
トニオンはこの世の全ての生き物を、たった二つに分類し区別する。それは究極――自分より強いか弱いか――。
トニオンは単に、その後者に該当するものを全て〈猫〉と呼んで区別しているのである。(冒頭に出て来た猫もまた、私がそれに習って猫と呼んでいるだけに過ぎない)
では前者――自分より強いものを〝何〟と呼んでいるのか。これについては未だトニオン自身の口から聞こえた事がないため、またいずれ……ということにしてもらいたい。
しかし、現段階でそれに名前がないことにより、これから先、このお喋りな私にとってなにか不都合な展開が待ち受けているかもしれない。よって私はこの瞬間から、仮にそれを〈くそゴリラ番長〉と呼ぶことにする。これは私だけの〝それ〟だ。
トニオンはこれまでの不運とも言える巡り合わせの中、くそゴリラ番長と未だ出逢えずにいた。――――いや……そもそも(これは考えたくないことだが)くそゴリラ番長など、最初からこの世にいないのではないか?
トニオンの強さから考察するに、もしもくそゴリラ番長などという〝ふざけた存在〟がいるとするなら、きっとそれはもう神話の中でしかないのだ。
私はトニオンの強さを信じ切っている。なぜなら……「終わったよ、おいでほら」……!!
…………もう少しお喋りを続けたかったが(ここからがおもしろい所なのに残念だ)、トニオンが私を呼んでいるのでこれで失礼するとしよう――と言いつつ私は動かない。私を呼ぶ声のする方へ一瞬振り向きはしたが、決して〝失礼〟はしない。
「お前は怖くないだろ?ほら、おいでってば」
……心配御無用。もうしばらくすればトニオンの方から観念して、ここでこうして山と化した私を〝ひょいっ〟と拾い上げに来るさ。私が山なら、トニオンもまた山のように大きな男だ。
さて、さっきの話の続きだが――のわっ!
〝ひょいっ〟とされた!(いつの間に!)
ついに〝ひょいっ〟とされてしまったぞ!
トニオンは腕の中に揺りかごを作って――のわっ!近い!顔が近いぞトニオン!
仕方がない、私も観念しようではないか。これで本当に失礼させてもらう……が、最後に一つ打ち明けておこう。
実をいうと、私も猫なのだ。しかもただの猫じゃない――〝猫の中の猫〟である。
喉でも鳴らしてみせようか?