46.名誉の帰還
ワニアの戦いは、セビカ・志太幕府連合軍の勝利に終わった。
これによりセビカに再び泰平の世が訪れる事となるであろう。
国王であるアルド・セリアーは、今回の戦いに従軍した志太幕府軍の将たちを国を救った英雄として褒め称え、後に彼らの銅像が作られたという。
それから志太幕府軍の将たちはセビカを後にする。
そして数日の航海の末、彼らの故国である創天国に帰還した。
祐永らの姿を見て祐宗は開口一番に言う。
祐宗
「皆の者よ、よくぞ無事に戻られた!余は嬉しい限りである。そして、此度は真に大儀であった!」
はるか海の彼方にある異国の地、セビカ。
そのような遠き地へと援軍を送り、勝利を収められた事に対して祐宗は精一杯の労いの言葉をかけていた。
祐永
「ははっ、真に手強き相手にございました故に苦戦を強いられましたが、ある者の働きによって勝つことができました。」
ワニアでのヘルト独立勢力軍との戦いは、一筋縄ではいかなかった。
特にアテヌ・ブラウスには終始手を焼かされ、何度も自軍の敗北を覚悟させられた。
だが、ある者の助けによって今回の戦いは勝利を納める事が出来たと祐永は言っていた。
やがて祐宗が首を傾げて彼に問い掛ける。
祐宗
「ほう、ある者か。ところで、政武の姿が見当たらぬが…どうされたのであるか?」
何故にこの場に政武が居ないのであろうか…
祐宗は疑問に感じているようであった。
すると宗重が真剣な表情で答え始める。
宗重
「政武は先のワニアの戦いにおいて、我らの身を助ける為に立派に散って逝かれました。」
自身がアテヌによって人質に取られてしまった事で自軍の形勢は一気に逆転。
そしてさらには祐永らを始めとする幕府軍の将たちの命も危うい状況に陥ってしまった。
その事に責任を感じた政武は、ある事を考え始める。
かくなるうえは自身がアテヌと共に果てて彼らを、志太幕府の者たちを救おうと…
そうして覚悟を決めた政武は、アテヌを抱えて濁流に身を投げたのであった。
祐宗
「そうか、かようなことがな…政武よ、実に立派な最期にござったな。」
祐宗は政武が犠牲となった事を知り、心を痛めているようであった。
だが、同時に身を挺してまで祐永らの身を救ったという事に対して称賛の声を漏らしていた。
崇房
「政武殿こそが真の武士にございましょう。かの者の力無くしては我らは今、この場にはおりませぬ故…」
アテヌの軍略にかかった我ら志太幕府軍は、壊滅していたやも知れない。
そう思われていた時、政武は勇敢にアテヌに立ち向かって行った。
今回のワニアの戦いは、彼無くしては勝利を収める事は出来なかったであろう。
そう語る崇房の目には涙が溢れ始めていた。
宗重
「冥府におられる政武殿は、政豊殿にお褒めの言葉をかけておられることでしょうな…」
政武よ、実に大きな手柄を立てたものじゃ。
流石は儂の子、血は争えぬものよの。
亡き政豊もきっと、このように喜ばれている事であろう。
宗重は目を潤ませながらそう言っていた。
余談だが政武の功績を称えた祐宗は後に八光御所の隣に社を建立し、そこで彼を軍神として奉ったという。
その社は木内明神として崇められ、現代にまで語り継がれる事となるのであった。
やがて祐宗は立ち上がり、皆に対して言う。
祐宗
「皆の者よ、犠牲無くして泰平の世は成り立たぬ。そのことを肝に銘じてこれからも政にはげまれるのじゃぞ!」
祐宗の目は、雲一つない晴天のごとく澄み切っていた。





